入院生活は約2年間、その後の通院生活は4年以上掛かりました。しかし、この6年間の長い間、ノブ ハヤシ選手は自暴自棄になったり、周りに当たり散らす事は一度もありませんでした。見た目は身体も大きく、坊主頭で、この頃には眉毛も無く怖い雰囲気だったノブ選手ですが、誰よりも優しく大きなハートを持っている事を再認識しましたね。
ノブ選手の周囲には言葉の意味を尋ねたり、道を教えて貰ったりする為にいつもK-1の外国人選手たちが大勢居ました。

しかし彼らはそうした用事以上にノブのビッグハートに惹かれてノブのそばに居たのだと思います。ノブが入院している時期、ピーターもジェロムもヘスディ・ゲルゲスも私の顔を見る度に「ノブの容態はどうだ?」と聞いてきましたから。

2013年の12月、ノブ ハヤシ選手は蒲田駅で線路に転落した男性を発見し、すぐさま線路に飛び降りて、長身を利してホームに担ぎ上げました。この人命救助の話を私は本人ではなくインターネットのニュースで知りました。

どうして教えてくれなかったの? と本人に電話で聞くと、

「甘井さん、困ってる人を助けるのは特別な事じゃないですよ。ましてや僕は身体が大きいですから。また今度会った時にでも話そうと思っていました」

と、ことも無げに言いました。

本当にノブはハートだけは男前過ぎます! ほんの数年前に生死の境を彷徨っていた男が人命救助なんて私の貧弱な想像力を軽々と飛び越してゆきます。私はノブ ハヤシを心から誇りに思います。この救助劇は新聞にも掲載されました。



2015年7月20日、熊本の地で開催された「火の国格闘伝説 LEGEND 6」にてノブ ハヤシ選手は判定勝ちで現役復帰後の初勝利を挙げました。この勝利を私は7年間待ちました。私ですら長い道のりだったのですから本人にとってはそれこそ茨の道だったことでしょう。感極まって涙を流すノブ選手。

「この涙は(KOで)倒し切れなかった悔し涙です」

と、こんな所でまで男前であり続けようとするノブ選手。

何よりも勝利が嬉しく、その男前のハートが妙に滑稽で、大会本部席に座りながらも私も貰い泣きしてしまいました。立場上、涙を隠しながら私は改めて「ノブのハートだけはホンマ、世界一男前やなぁ」と改めて思いました。


甘井もとゆき
PROFILE
1967年4月22日生まれ。ドージョーチャクリキ・ジャパン株式会社 代表取締役。オランダ・アムステルダムを本拠地とする格闘技道場の名門ドージョーチャクリキの日本代表。日本人選手のマネージメント、外国人選手の招聘、自主興行の開催などを通じ、ファイティングスポーツの世界に携わっている。
ドージョーチャクリキ・ジャパンHPhttp://www.chakuriki.jp/
フェイスブックhttp://www.facebook.com/motoyuki.amai

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