地中海料理でリスクが4割減

まずは【食事】編。
サンマやイワシなどの青魚、緑黄葉野菜、赤ワインなどが認知症予防にいいことは、読者の皆さんにも、かなり知られているだろう。

では、スペイン、イタリア、ギリシア、モロッコなど地中海沿岸の国々の人たちが日常食べている「地中海料理」が予防に効果的だというのは本当だろうか?
元・米イリノイ工科大学助教授で、『ボケずに健康長寿を楽しむコツ60』(角川書店)などの著書もある生田哲(いくたさとし)氏(薬学博士)が解説する。
「地中海料理は、野菜、魚介類、少しのワイン、それにオリーブ油、フルーツ、ナッツ類、穀物を多用し、肉と乳製品をあまり使わないのが特色。コロンビア大学の研究論文によれば、高齢者を〈地中海料理を食する群〉と〈地中海料理とかけ離れた群〉に分け、軽い認知症にかかるリスクを4年間かけて追跡調査をしたところ、前者はリスクが40%以上も減ったそうです」

これは、オリーブ油や赤ワイン、フルーツ、野菜に含まれる、ビタミンC、E、カロチンなど種類の異なる抗酸化物質が脳の老化を活性酸素から守り、さらに、魚介類に含まれるオメガ3と呼ばれる脂の一種が、脳を慢性炎症から守る結果ではないかと考えられる。
「インドは世界的にアルツハイマー病の患者が非常に少ないんですが、これはカレーを常食にしているおかげといわれています。カレーに欠かせないスパイスのウコンに含まれるクルクミンという成分に、記憶力の低下を抑える効果があることが確認されているんです。また、ウコンをマウスに与えた実験では、認知症を招く原因の一つである脳の神経細胞から出るゴミ、つまり老人斑の量が著しく低下したそうです」(生田氏)

さらに、チョコレートをよく食べるスウェーデン、スイスなどの国民は認知症患者が比較的少ない。
「チョコレートに含まれるカカオ成分に抗酸化作用があるのは事実です。ただし、ミルクチョコレートでは効果はありません」(前同)

ちなみに、認知症とは関係ない(?)が、国別のチョコレートの消費量とノーベル賞受賞者数は比例関係にあるという説も。確かに、米国やスイスではノーベル賞受賞者が多く、逆に、あまりチョコレートを食べない中国や韓国などでは受賞者は少ないが……。

さて、お次は、【運動】編だ。
アメリカでは、フィットネスクラブでのトレーニングやジョギングなどの有酸素運動が盛ん。オバマ大統領も絶賛し、雑誌の病院ランキングで、も毎年最上位に入る、ミネソタ州の小さな町にある総合病院「メイヨー・クリニック」も、これらの運動に認知症予防効果があるとのデータを発表している。

しかし、予防医学の専門家である新潟大学名誉教授の岡田正彦氏(医学博士)は、それらの運動だけにこだわる必要はないという。
「有酸素・無酸素も含め、運動の種類は特に問いません。脈拍が少し増える程度の運動を週3回以上、30分やればいいんです。週5回以上だとベター。食事や健康法などいろいろな予防法がいわれますが、私は全身運動が一番重要だと思います。しかも遅いということはありません。70歳以上の方でも、今から始めれば効果はあります」

つまり、いたずらに激しい運動をする必要はないということだ。これは"認知症大国〞である中国も証明している!?
「中国は、13年の時点で約900万人だった認知症患者が、50年には3倍以上の約3000万人にまで急増するといわれています。それでも"太極拳〞のおかげで、その増加スピードをずいぶんと食い止めているとの説もあるんです」(前出の医療ジャーナリスト)

太極拳のような武術は健康や長寿に良いとされ、多くの中国人が生活の一部に取り入れている。
「認知症予防には適度な運動がいいことが知られていますが、太極拳も同じ働きがありますからね」(前出の生田氏)

朝、公園で太極拳に励む中国人ではないが、ラジオ体操や散歩などで朝から体を動かす人も多いだろう。そうして始まる1日の【生活リズム】についても見ていこう。

生田氏は、そんな朝からの運動が「結果的に毎朝、太陽を浴びることになっているのがいい」という。
「ビタミンDの欠乏が認知症のリスクを増大させるという研究報告があります。現代人は紫外線のがんリスクなどを心配し、意図的に太陽を避け、ビタミンD不足状態にありますからね」

また、スペインやアルゼンチンなどは、昼休みを3時間ほどゆっくり取り、昼寝もすることが生活の一部になっているが、そんな「シエスタ」と呼ばれる習慣も認知症予防にいいといわれている。
「昼寝は特に昼食後の30分程度が最適で、認知症の発症リスクを実に8割も減らすとのデータもあります」(前出の専門誌記者)

  1. 1
  2. 2
  3. 3