『仁義なき戦い』の時代劇版?

錦之助主演作では、吉川英治の原作を映画化した「宮本武蔵」シリーズが光る。『宮本武蔵』(61年)、『~般若坂の決斗』(62年)、『~二刀流開眼』(63年)、『~一乗寺の決斗』(64年)、『~巌流島の決斗』(65年)の5部作である。
「内田吐夢監督の方針で、錦之助の俳優として、人間としての成長をそのまま映画にも反映させるべく、1年に1本という贅沢な作り方でした。作品ごとに武蔵というキャラクターの成長が明確に出ている。錦之助という俳優のすごみを実感できます」(三角氏)

ミゾロギ氏が「錦之助の演技の幅の広さを知るには必見」と推薦するのが『真田風雲録』(63年)だ。真田十勇士の活躍をギャグや歌、SF的要素を交えて描いたアクション喜劇。
『宮本武蔵』と同時期の作品なのだから驚きだ。

その後、時代劇は60年代中盤をピークに斜陽化。東映は主軸を任俠映画に移す。
それも下火になると、時代劇復活を掲げ、萬屋錦之介と改名していた往年のスターを呼び戻した。『柳生一族の陰謀』(78年)は錦之介をはじめ、千葉真一、松方弘樹、西郷輝彦、丹波哲郎、山田五十鈴、そして三船敏郎らが出演のオールスター大作だ。

監督は『仁義なき戦い』の深作欣二。となれば、ただの時代劇にはならない。
「ヤクザの抗争劇を将軍家の後継者争いに置き換えた、いわば『仁義なき戦い江戸死闘篇』です(笑)」と三角氏。続けて、
「柳生但馬守役の錦之介は旧来の時代劇のような芝居を通し、深作監督は渋い顔をしたとか。錦之介は作品を面白がった反面、古典的な時代劇を守ろうとしていたのかもしれません」

ラストには、まさかのどんでん返しが待っている。
「そこで錦之介の芝居が思わぬ効果を生んでいます。監督にとっても、嬉しい誤算だったようです」(前同)

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