プロレスをみる醍醐味のひとつは、壁にぶち当たっている選手を見ることである。いや、見させてもらうことができる。プロレスは人生の縮図ではなく、人生がプロレスの縮図なのだから。

伸び悩む選手がどうやって現状をぶち破るか。これは我々の現実世界に当てはめることができる。レスラーのもがく姿をみて共感する人もいるだろうし、生々しくて目をそむけたくなる人もいるだろう。

長いあいだくすぶっていた長州力が藤波辰巳(当時)にケンカを売ったとき、長州の人気が爆発した。自分の立場に置き換えて思い入れたっぷりにみる大人のファンが続出したのだ。天龍が全日本プロレスで行動をおこしたとき、熱く支持する人が続出した。今の空気を変えてくれ天龍! という思いが一致したのである。

橋本真也はトニー・ホームや小川直也に負けるたびに人気を上げたのかもしれない。負けが重なるほどファンは次に託した。

もっと現実的な例もある。蝶野正洋はG1を優勝しても模索しているようにみえた。どうしても「巧さ」が先立つタイプ。技術だけでなくインパクトも必要だ。蝶野は一大決心してヒールに転向した。グッと華が出た。観客はこのプロセスを共有できただけで嬉しいのである。まさに「蝶」になる瞬間を見れたことが。

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