人生に役立つ勝負師の作法 武豊
諦めずに道を探せば「復活」もある


栄枯盛衰――どんな世界であれ、永遠に第一線で輝き続けることはできません。

サラリーマンの方なら定年退職。スポーツ選手なら現役引退……誰にでも平等に、いつか、その時はやってきます。分かってはいても、今年のプロ野球界は、ちょっと驚くほど多くの一流選手が現役を退きました。

中日の山本昌投手。同じく小笠原道大選手。和田一浩選手。谷繁元信兼任監督も、選手としては引退。西武の西口文也投手。楽天の斎藤隆投手。オリックスの谷佳知選手。愛してやまない阪神タイガースの関本賢太郎選手……。思いつくままに数えていくだけでも、今年は、両手両足の指ではとても足りません。

まだ、やれる。もしかしたら、もう、無理かも……。
自ら引退を決めることができないサラブレッドの場合は、さらにこの見極めが難しくなります。

1999年10月31日に行われたGⅠ「天皇賞・秋」(芝2000メートル)。スペシャルウィークの背中に跨った僕の心は揺れていました。
彼は僕に初めて、"ダービー・ジョッキー"の称号をプレゼントしてくれた最良のパートナーです。その強さは、誰よりも僕自身が一番、分かっています。それが、この年の7月に行われたGⅠ「宝塚記念」では、グラスワンダーに3馬身差の完敗。復活を期した秋初戦の「京都大賞典」では、まるでいいところがなく7 着に敗退。「天皇賞・秋」の直前調教でも、500万条件の馬に遅れをとるなど、「スペシャルウィークは終わった……」という声が飛び交っていました。

もう強かった頃とは違うのかな――レースを前に弱気になったことも確かです。
それでも、オグリキャップの引退レース「有馬記念」じゃないですが、強い馬はやっぱり強いんじゃないか……そう思い直して、負けたレースを見直し、彼にとってのベスト騎乗をもう一度、ゼロから考え直してみることにしたのです。

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