人工島12海里に米艦艇派遣

こうした動きに、周辺各国は敏感に反応。インドネシアは国防費を10年前に比べて約2.5倍に引き上げ、ベトナムはロシアから高性能のキロ級潜水艦を3隻購入(3隻追加予定)、フィリピンは昨年、米軍の駐留を復活させている。
「島国である日本も、世界屈指の海路である南シナ海の安全の確保は国家命題です。東南アジア諸国に対し、対中の備えを怠らないように呼びかけるとともに、オーストラリアや、インドとも連携を深めています」(前出の内閣官房関係者)

日本一国でも、"対中シフト"の強化を急いでいる。
「自衛隊は、南西方面に戦力をシフトしている最中です。離島防衛のエキスパートである西部方面普通科連隊(相浦駐屯地=長崎)を4倍の規模に拡大し、3000人規模の"水陸機動団"を新設する計画です」(軍事評論家の古是三春氏)

国際法を無視して我が道を突き進む中国と、警戒を厳にする周辺諸国。"待ったなし"の状態に陥った南シナ海だが、ここにきて、ついに"真打ち"の登場が決定した。世界最強の米軍だ。
「今月半ば、オバマ政権は東南アジア諸国に対し、外交ルートを通じて"中国が人工島を建設中のスプラトリー諸島に対し、海軍艦艇を派遣する"ことを通達したんです」(前出の外務省関係者)

艦艇の具体的な派遣時期は明示されていないというが、「遅くとも11月中には」(前同)というのが、消息筋の一致した見解だ。
「オバマ政権は中国が領土と主張する人工島の12海里(約22キロ)の内側に艦艇を送り込む方針です。この"12海里"というのがポイントです。12海里は主権が及ぶ"領海"を意味するからです。要するに米国は、人工島を中国領と認めないと意思表示しているのです」(前出の黒鉦氏)

領海であっても、他国の船舶が、これを航行する権利は認められている。これを無害通航権というが、
「資源調査船や軍艦の類は適用外です。それを承知で、米国は海軍艦艇を派遣するわけですから、中国の面子は丸潰れですよ」(前同)

"米中のG2時代"などと喧伝(けんでん)されていた昨今、"中国に大甘"とされてきたオバマ政権は、なぜ手のひら返しを決めたのか。
「オバマ政権の第1期は、中国に取り込まれかけていました。これは中国の接待工作が大きい。オバマ大統領とミシェル夫人のみならず、2人の娘、そして夫人の母親まで訪中させ、豪華接待しましたからね。いわば政権というよりも、"オバマ・ファミリー"の籠絡を狙っていたんです。そうした文脈の中で行われたのが、2013年6月の米中首脳会談(カリフォルニア)。ここで、習国家主席が"今後は中国と米国で太平洋を二分しよう"と持ち出したと漏れ伝わり、一気に、米国は親中路線に傾くと報じられたんです」(外交評論家の小関哲哉氏)

ところが、対中融和外交が国内から猛批判を浴びた反省から、オバマ政権は第2期になると方針を転換。
「その象徴が先月の米中首脳会談です。訪米した習主席をオバマ大統領は"手ぶら"で帰しましたからね」(前同)

ちょうど、ローマ法王の訪米と時期が重なったせいもあったとされるが、
「法王はオバマ大統領、バイデン副大統領に出迎えられたのに対し、習主席を出迎えたのはシアトル市長でしたからね。米メディアの扱いも小さく、完全に米中蜜月は終わった印象です」(前出の外務省関係者)

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