トム・ハーリック会長の口癖に、若い選手を褒め、他者にアピールする際に「おい、こいつは将来、あのピーター・アーツを超えるぞ!」というフレーズがあります。一部の人にはお馴染みの台詞でしょう。逆に言うと、それ程ピーター・アーツ選手がトム・ハーリック会長が手掛けてきた選手たちの中で群を抜いて凄かった事を端的に示している台詞だと思います。
最初、この言葉をトム会長は日本逆上陸デビュー戦のノブ・ハヤシ選手のために使いました。最近ではヘスディ・ゲルゲス選手やラウル・カティナス選手のアピールの際にも使いました。ピーターを超えるかどうかはともかく、それ程トム会長がその選手に期待しているという証であります。
17歳で、長身ではあったものの、身体も細くおどおどした印象のバダ・ハリ選手を、トム会長は「アマイ、こいつは将来、あのピーター・アーツを超えるぞ!」と紹介してくれました。しかし、臆病そうなバダ少年を見るとトム先生の言葉に対して半信半疑だったのを思い出します。
一緒に食事をしてもムスリムのためか、バダ少年は料理の中にどのような素材が使われているのか、カタコトの英語で聞いてきます、私も一生懸命カタコトの英語で説明しましたが、上手く伝わらなかったのでしょうね。
バダ少年はほとんど食事に手を付けませんでした。他にもバダ少年は神経質そうな印象で、あんなに神経が細くて選手として大成出来るのかなぁ? などと心配しておりました。
その後にチャクリキを離脱したバダ・ハリ選手が、3年後にK−1選手として日本で戦った際に私は目を疑いました。あのおどおどしたバダ少年が、リング上で太々しく振舞うバダ・ハリ選手と同一人物だとは、暫くの間、姿形は同じと理解出来ても、心理的に納得がいきませんでした。
後にノブ・ハヤシ選手に、バダ・ハリ選手の本質は、私が最初に会った時のように、神経質でナイーブな性格で変わりないと聞かされました。そうするとあの「悪魔王子」の太々しい態度は、そうしたメンタルの弱さを覆い隠す彼なりの「仮面」なのでしょうね。

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