また、コーヒーを飲むことも予防につながる。フィンランドのクオピオ大学の研究グループが1409人の高齢者を21年にわたって追跡調査した結果、コーヒーを習慣的に1日3~4杯飲む人は、それ以下ないし、まったく飲まない人に比べ、認知症になるリスクが65%も低下していると発表したのだ。

「認知症になると、記憶を司る脳の海馬が委縮しますが、米ジョンズ・ホプキンス大学のマイケル・ヤッサ氏の実験によれば、コーヒーに含まれるカフェインが海馬の働きを活性化してくれるといいます」(前同) 同じく飲み物ではリンゴジュースも予防効果が。米マサチューセッツ大学のトーマス・シー氏は、高齢のネズミにリンゴジュースを混ぜた水を与え、深いプールの中に入れて、隠れている休息用の台を発見させる水迷路実験を実施。リンゴジュースを飲まなかったネズミに比べ、明らかに正確さとスピードの向上が見られたという。

「アルツハイマー型認知症になると、脳内のアセチルコリンという神経伝達物質が不足することが分かっています。シー氏は、このアセチルコリンのレベルがリンゴジュースで高まったと結論。また、リンゴジュースには、アミロイドβの蓄積を抑制するという説もあります」(前出の生田氏) ネズミに与えて効果のあったリンゴジュースの量を人間に換算すると、1日コップ2杯になるという。

 次に【運動】。通勤時にできるだけ歩くことをオススメしたい。筑波大学の征矢英昭教授らの研究グループは、軽い運動は脳の前頭前野が担う注意力や判断力などを向上させると発表している。「これまでもボケ防止には運動がいいといわれていましたが、それはジョギングなど、ある程度以上の運動をするのが前提でした。ところが、通勤時や家事など、日常生活でこまめに体を動かすだけでも、効果があるというんです。肥満、糖尿病、高血圧、コレステロール値が高い人は、認知症の発症率が高いことが分かっています。軽い運動でも、こまめにやれば熱量消費が増え、肥満解消などにつながるのではないでしょうか」(米山氏)

 また社交ダンスもオススメという。大分県の宇佐市安心院町で、高齢者を対象に料理教室を続けたところ、9割の人に認知機能の向上が見られたという。料理教室では、お金の計算をしながら買い物をしたり、互いに話をしながら材料を切ったり、調理をするなど、2つ以上の作業を同時進行で行う。これを「デュアルタスク」という。「米国で75歳以上の469人の余暇活動について約5年間、追跡調査した結果、何もしない人に比べ、認知症発症の確率が、デュアルタスクが典型的な社交ダンスでは0.24倍と最も低かったのです」(前同)

 他の結果はチェス0.26倍、音楽活動0.31倍、読書0.65倍であった。社交ダンスだけでなくフラダンスもいいという。カール・ルイスなど世界トップアスリートの筋肉を研究し、その驚異的パフォーマンスの鍵は「大腰筋」に代表されるインナーマッスル(体の奥にあるバランス調整などを司る筋肉)にあることを突き止めた、東京大学名誉教授の小林寛道氏。認知症患者9人にインナーマッスルを鍛えてもらったところ(1日30分。3か月)、そのうち6人の認知機能が上がったという。

「小林教授によると、通常の筋トレに比べ、インナーマッスルを鍛える際のほうが、脳内の活動域が広く、活動量も多いことが確認されたといいます。そのため脳がより活性化すると考えられるのです」(同) 腰を振るフラダンスや、中腰でコミカルに踊る「どじょうすくい」の踊りも、インナーマッスルを鍛えられるので、試してみたい。

 最後は【脳活】について。ネット検索をしよう。米カリフォルニア大学の研究チームが55歳から76歳までの24人を対象に、インターネット検索をやってもらったところ、全員に脳血流の増加が見られ、脳機能が向上する可能性があると発表している。「この発表が注目されるのは、実験対象者の半数にネット検索の経験がなかったという事実です。パソコンは脳を怠けさせ、認知症の予防にならないと思っている人は少なくないと思います。不慣れな高齢者なら、なおさらかもしれません。だが、ネット検索は欲しい情報を調べるまで、次々サイトを開き、それでも求める情報が出なければ、検索ワードを変えるなど、自分の頭を使わなければできません」(同)

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