冬場、暖かい居間から寒い脱衣所や浴室に入ると、血管が縮小して血圧が上がる。この状態で浴槽にざぶんと浸かると、熱さのために交感神経が緊張して、さらに血圧が上昇。ところが、浴槽で体が温まってくると、今度は血管が広がって血圧が下がる。心臓や血管が健康な20代なら、こうした血圧の大きな変化にも耐えられるが、動脈硬化が進み、心臓にガタがき始めた中高年は体がついていけなくなる。「最悪の場合、心臓や脳の血管が詰まるなどして、心筋梗塞や脳卒中となるんですが、浴槽に入って血圧が急に下がるのも危険なんです」(前出の石蔵教授)

 浴槽に入って血圧が急に下がると、いわゆる貧血状態になり、意識がもうろうとして軽い失神状態になる。「浴槽に入っているときにこんな状態になると、溺れてしまうケースがあるんです」(前同)

 厚生労働省の統計でも、年間3000~4000人が家庭の風呂場で溺死しているという報告がある。寒い冬の夜は温かい風呂が天国だが、そのまま本当に天国に行っては、しゃれにもならない。そうならないために、どんなことに注意したらいいのか? 下の『冬の突然死 こんな人が注意!』のチェックリストを参考に、その対策をまとめたい。

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 ヒートショックを起こしやすいのは、血圧や血糖値、中性脂肪値やコレステロール値などの数値が高く、肥満気味(肥満度を表すBMI値が25以上)の人だ。「こうした数値が悪い方は、動脈硬化が進んでいる証拠です。当然、血管事故であるヒートショックの発生率も高くなります」 こう説明するのは『宮元通りクリニック』(東京都大田区)の渡會敏之院長。特に高血圧を指摘された方は要注意だ。高血圧の人は一方で血圧が下がりやすいため、浴槽で貧血になりやすいからだ。

 また、ちょっとした階段や坂道を上っただけで息が切れたり、胸が苦しくなる人は心臓の血管に問題がある可能性が高いため、入浴中に心筋梗塞を引き起こす恐れがある。性格や普段の食習慣などでも、ヒートショックを起こしやすい人がいる。せっかちで、何でもパパッと済ませる性格の人は、風呂に入るときもパッと脱いで、浴槽に勢いよく飛び込んでしまう。若い頃なら問題ないが、年を取ると体が、この変化についていけない。「中高年の患者さんには、“風呂に入るときは、浴槽にいきなり飛び込まず、まず足や手に1分ぐらいかけ湯をしてから入るように勧めています」(渡會院長) 浴槽に入る前に、しっかりとシャワーを浴びる。これも急激な温度差を避ける方法だ。

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