シンガーソングライター・早川義夫「片思いでも孤独でも、生きがいは恋愛かもしれない」~タブーに踏み込む人間力の画像
シンガーソングライター・早川義夫「片思いでも孤独でも、生きがいは恋愛かもしれない」~タブーに踏み込む人間力の画像

 音楽を始めたのは、女の子にモテたかったからです。みんな最初はそんな理由からじゃないかな。動機は不純でも、そのあと純粋であればいいですよね。ビートルズが、女の子を失神させたりとか、すごいなって思いました。でも僕はギターが下手で、コピーができなかったから、自分で曲を作り始めました。それが18歳のときです。

 そしてジャックスというバンドでデビューしたんですけど、女の子どころかあまり受けず、売れなくて。バンドはアルバムを2枚作って解散。その後、レコード制作のディレクターの仕事をしたんですけど、人の音楽の手伝いをするのは向いてないなって思って辞めたんです。そうしたら、次にどういう職業についたらいいのか見当もつかない。

 学校は中退してしまったから会社員にはなれそうにない。居心地のいい場所はどこだろうと考えてみたら、喫茶店と本屋しか浮かばなくて。でも、喫茶店は話し声がうるさいし、本屋なら静かで、猫でも抱いていればいいと思って始めたんです。ところが、小さな本屋は思い通りに本が配本されないから、苦労しました。歌を中途半端で辞めてしまった悔しさもあって、このまま商売を続けて死んでいったら、骨以外のものが残ってしまうような気がして。それで、45歳になってもう一度歌うようになったんです。

 本屋をやっているときは歌ったり、楽器を触ることは全然なかったですね。音楽が好きというより、自分の気持ちを表現するのに適していただけかもしれない。日常で言いそびれてしまったことや本当の気持ちはこうなんだということを、拙くてもいいから、歌に表せたら、どんなにいいだろうなと思いました。最近、書下ろしで文庫本を出したんですけど、それは「語れないこと、語ってはいけないこと」を書きたいと思ったからです。「語れること」というのは、わざわざ書くほどのことではないなと。「えっ、そんなことまで書いていいの」というくらいのものが、恥ずかしいけれど、人間の心の中だと思うんです。

 たとえば、エッチな気持ちがありますよね。でも、それは自然なことであり、決して悪いわけではない。もちろん、人に迷惑をかけてはいけないけれど。この世で一番美しいものは、この世で一番いやらしいことだと思っているんです。昇華していけば、本当の気持ちは、あわれで、美しいはずだと思うんです。

 20歳ぐらいの時に、谷崎潤一郎の『痴人の愛』を読んで、老人と若い女の子のように年齢差のある恋愛に憧れました。やはり、意外なこと、あり得ないこと、いけないことのほうが物語になりますよね。僕はもう68歳だから、不可能に近いことは十分承知していますが、正直に言うと、若い女の子と恋愛関係になれたらいいなと思っています。女の子の中には、若い男に興味がなくて、年上がいいっていう人もいますよね。そういう人と出会えればうれしいですね。

 うちの奥さんは、ちょっと変わっていて、僕の恋愛に文句を言ったことはないんです。「いい娘が見つかるといいね」って勧めてくれるくらい。娘も理解していて。自分の父親が女の子とつきあっても、普通なら「不潔!」となりそうだけど、そう思われたことないですね。女の子と知り合うきっかけは、やはり、音楽をやっているときかな。でも、これまでに、うまくいったことは、2、3回しかないです。しかも数年後には結局、ふられちゃうの。それが悲しい。

 それでも、生きがいは恋愛かもしれない。片思いでも、孤独を味わっても。もし、自分があと数時間で死ぬという状況になったら、昔は恋人とあんな場所で、あんな格好で、あんなことまでしちゃったってことを思い出す気がする。そして「あの子はすごくいい娘だったな。生きてて良かったな」って実感すると思うんですよ。

撮影/弦巻 勝

早川義夫 はやかわ・よしお

1947年12月15日、東京都生まれ。66年に伝説のロックバンド、ジャックスを結成。68年にシングル『からっぽの世界』でデビューするも2枚のアルバムを残してジャックスは解散。その後は、川崎市内で早川書店を経営。 94年に『この世で一番キレイなもの』をリリースし、再び歌手として活動を再開。ミュージシャンとして精力的にライブを行うほか、文筆家としても活躍。『たましいの場所』、『生きがいは愛しあうことだけ』(共にちくま文庫)など著書も多数。早川義夫公式サイト http://h440.net/

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