「マラソン代表」が五輪のたびにモメる理由の画像
「マラソン代表」が五輪のたびにモメる理由の画像

 会心の激走を見せる韋駄天娘と、なんとも煮え切らない親父ども。4年に一度はモヤモヤさせられる「あいまい選考」はなぜ起こる!?

 リオ五輪の開幕まで5か月。出場を決めた選手、選考試合を控えた選手、それぞれが勝負を見据えて静かに牙を研いでいる時期に、とんだ騒動が起きた。「1月31日、リオ五輪の代表選考レースの一つである大阪国際女子マラソンで、福士加代子(33)が日本女子歴代7位となる2時間22分17秒の記録を叩きだして優勝しました。オリンピック派遣の基準となる“派遣設定記録”を13秒上回り、本人も“リオ、決定だべ~!”と跳びあがって喜ぶほどの快勝で、誰もが代表入りは確定だと思ったんですが……」(スポーツ紙記者)

 だが翌日の2月1日、福士陣営は3月開催の次の選考レース、名古屋ウィメンズマラソンへの出場検討を表明。所属するワコールの永山忠幸監督が「(日本陸連から)“当確”の言葉がない」と、代表内定の連絡がないことを明かしたのだ。追い打ちのように、6日には陸連の酒井勝充強化副委員長が「(名古屋に)出るな、とは言えない。選考要項ではわずかに落選もありえる」とコメントし、急転直下の落選可能性も示唆。これに、福士サイドは反発。永山監督は「生きるか死ぬかでやっている。攻めるしかない」と、合宿に入ることを宣言した。

 それにしても、派遣設定記録なるものまで存在している以上、それを突破した福士は「明らかに代表に派遣される資格を得た」と思うのが普通だろう。「この設定記録は、前回のロンドン五輪までは存在しなかった制度で、五輪選考レースで突破したのは、福士が第一号。当然、内々定のような通達があるはずだと思いますよね」(前同)

 しかし、福士には何の連絡もなかっただけでなく、落選もありえると言われる始末。福士側の態度が硬化するのも無理はない。しかし、酒井副委員長の言う「選考要項」をよく読むと、当確を出せない理屈も見えてくる。陸連では、リオ代表の選考要項を男女ともに以下の2段階で定めている。【(1)世界陸上競技選手権大会マラソン8位以内入賞者で、日本選手最上位者1名を内定する】(要約) この条件には、昨年の世界陸上北京大会で7位に入った伊藤舞(31)が該当。タイムは2時間29分48秒と今回の福士に大きく遅れるが、代表選考にはこの条件が最優先されるため、伊藤は代表に即内定した。

 この時点で残りは2枠。その枠を、次の条件で争う。【各選考レースにおいて日本人3位以内の競技者から、(2)「日本陸連設定記録を満たした者」(最大1名)→(3)「各大会での記録、順位、タイム差等を勘案し、活躍が期待される者」の優先順位で選考する】(要約) 選考レースは全部で3つ。1つめのレース、さいたま国際マラソンで吉田香織(34)が2時間28分43秒で日本人1位、渋井陽子(37)が同2位に入ったため、名古屋の結果次第で(3)の資格を得る可能性がある。

 福士は大阪で設定記録を上回って優勝し、吉田らより上の(2)の資格を得た。しかし、【最大1名】という注記が最大のミソ。「これは“選考の全過程を通して1名”ということ。つまり、誰かが福士よりいいタイムで名古屋を走ったら、その人が(2)の有資格者に繰り上がり、福士は(3)に落ちる。現状、厳密には決して当確ではないんです」(全国紙スポーツ担当記者) 今後、福士が落選する可能性があるとしたら、名古屋で日本人が少なくとも1位と2位を取り、2人とも福士よりタイムが良かった場合。確かに、可能性は決してゼロではないのだ。

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