さらに同誌では、「激しい運動を行うアスリートに心房細動(不整脈の一種で、心不全や脳梗塞のリスクが高くなる)が多いことは心臓専門医の間でよく知られた事実。ハードな運動は心臓の摩耗と機能低下を起こす恐れがある」と、警鐘を鳴らしている。

 日本でもランニングと突然死に関する疫学調査が行われている。東京都監察医務院と日本心臓財団が84~89年にかけて運動中に突然死したケース645件のケースを精査したところ、39歳以下ではランニング中がダントツの1位。40~50代では2位(1位はゴルフ)、60歳以上では3位(1位ゲートボール、2位ゴルフ)となっている。「突然死の原因は2割が脳卒中(脳梗塞と脳出血)で、残り8割が心不全です。ランニングが心臓に悪く、命を縮めることは様々な研究からみても明らかです」(医療ジャーナリスト)

 ダメージを受けるのは、何も心臓だけではない。ドイツのベルリン大学病院が、ベルリンマラソン参加者167人(平均年齢50歳)を対象に、走る前と走った後の腎機能検査を行ったところ、被験者の腎機能は走行後に25%も低下した。これは急性腎不全の軽度から中度に判定される数値だから、腎臓へのダメージはかなり大きい。

 マラソンなどの激しい運動で腎機能が損なわれるのには、いくつか理由がある。ひとつは、激しい運動で筋肉から尿素などの老廃物が大量に出るため、腎臓の濾過能力が追いつかなくなるため。もうひとつは、運動で汗をかいて血中の水分が失われ、腎臓への血流量が減ってしまう。これで腎臓の細胞が破壊されて腎機能が低下するのである。「まだまだリスクは他にもあります。運動すると、筋肉などの細胞から“体のサビの素”とも言える活性酸素が多く発生し、活性酸素は遺伝子を傷つけて、がん化させたり、体の脂肪と結びついて血管の動脈硬化を早めます」(前同)

 若い頃は活性酸素を分解する酵素(SOD)が多いため、大きな問題にならないが、加齢とともに、この酵素が少なくなってくる。中高年がハードな運動をすると、活性酸素を除去できないため、血管の傷みが激しくなり、体の老化(酸化)も一層進んでしまう。

 前出の石蔵教授によると、中高年がランニングをすると、こうしたダメージに加え、膝や腰を傷める危険もあるという。「年とともに硬くなってきた関節が、無理に走ることで擦り切れてしまう。中高年がタイムや順番を競うマラソン大会に出場し、足腰を痛めることは多い」

 ランニングは心臓に負担をかけ、突然死の恐れもあるのは冒頭の松村邦洋の例で分かるだろう。さらに、腎臓などの内臓機能も低下し、活性酸素で老化も早まる。さらに、足腰を鍛えるどころか、逆に関節を痛めることもあるというわけだ。特に中高年にはリスクが多いのだが、「オレ、走るの楽しいし、好きだから」という方もいらっしゃるはず。

 では、どのようにランニングすればいいのか? 米国心臓学会の専門誌では、5048人のランナーを対象に追跡調査した結果を基に、「健康的なランニング」の目安を示している。

(1)走るのは週に1~2時間ぐらい
(2)走るのは週3日以内とする
(3)走行スピードは時速7キロぐらいで、慣れても8キロが限度

 ちなみに、時速7キロは1キロ7~8分ほどのスロージョギングといわれ、一緒に走る人とおしゃべりができる速さだ。調査では、このようなランニング習慣を持つグループが最も死亡率が低く、健康的だったという。

「走り始めると、呼吸が苦しくなったり、足が重くなるデッド・ポイントが訪れるんですが、これを過ぎるとセカンド・ウィンドと呼ばれる状態になります。脳の快感物質であるエンドルフィンが出て走ることが気持ちよくなるんですが、これにハマる人も多いんです。それで、ついもっと速く、もっと長く走ろうと頑張ってしまう。健康のためには、距離やタイムにこだわらず、景色でも見ながら楽しく、ほどほどにすることが大切です」(石蔵教授)

 マラソン大会に出るときは、いくつか注意しなければならないことがある。第一に、走る前夜のアルコールは絶対にNGということだ。酒を飲むと眠りが浅く、翌朝も体が疲れた状態になっている。この状態で無理に走ると、心臓や血管に大きな負担がかかり、それこそ天国まで走っていってしまうことになりかねない。

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