都内の有名大学病院の内科医に、「ご自身がよく利用する薬」を尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。なんと、薬はまったく使わないというのだ。「目薬は使いますけど、服用する薬を使うことはまずありません。家族にも飲ませません」 しかも、その理由が「薬は体に毒だから」(前同)と言うのである。しかし、これは驚くべきことではない。取材を進めていくと、多くの医療関係者が薬を遠ざけている事実に突き当たったのだ。

 体を良くするための薬が体を悪くするとは、どういうことなのか。「薬は、言い換えれば、“症状=体”に大きな変化を与えるものです。ただし、変化には治療というプラスの変化と、副作用というマイナスの変化の両方があります。良い変化に限ってみても、悪い事象を抑えるだけの“力”がありますから、体にダメージがないわけがないのです」(同)

 たとえば、あなたの周りで、自覚症状がなかったのに病院でがんと宣告され、治療を始めた途端に一気にやつれていったという人がいなかっただろうか。「これは抗がん剤のせいと考えられます。抗がん剤は“劇薬”とも言うべき強い効力を持っていて、体の正常な機能にまで影響を及ぼすのです。がんを治すという目的で一般的には使われていますが、健康な体を、なるべく長く維持するという目的なら、投与をすべきではないという考えも一部ではありますね」(同)

 つまり、薬が体に及ぼす影響はそれだけ大きく、自律神経の乱れや自然治癒能力の低下のような説明しづらいものから、目に見える症状、そして「死」という最悪の事態まで、さまざまな形で現れる。そもそも、医師たちは自分が薬を飲まないのに、どうして患者には処方するのか。話すのは別の医師だ。「患者が病院に来るのは、今苦しんでいる症状をいち早く改善したいからですよね。だから、“病名は○○です。1週間で良くなります”では納得しない。“それだけを言ってもらうのに、待ち時間と診察料をムダにしたのか”と怒られますよ」

 その結果、生じるのが<とりあえず、薬>だという。病院で診察してもらった際、「とりあえず、○○を1週間出しておきますので、様子を見ましょうか」と言われた経験はないだろうか。これには、手ぶらで帰らせてはいけないという心理に加えて、病気を特定できていないという事情が絡んでいるという。

 たとえば、咳で悩んでいる患者がいるとして、それが喉の炎症などによるものなのか、風邪などの病気なのか、あるいは何かの感染症なのか、その場では判断できないという。「特定すべく検査をするにしても、感染症だって半端な数ではない。だったら、とりあえず可能性の高い薬を出しておいて、時間をしばらく置いてから、その効果を見て、効いていなかったら別の原因を疑って、その薬を処方するのです。もちろん、薬をムダに服用する可能性はありますが、検査には時間もお金もかかりますから」(前同) 余計な薬の服用は一般人でも抵抗があるが……。

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