“時事ネタ”を巧みに取り込む場合も多い。横浜の傾斜マンション事件があった直後は、「うちのマンションも、くい打ちが不十分で建て替えが必要になった。初期費用を出して」と詐欺を持ちかけた例もあった。「最近ではマイナンバーを案件に用いた詐欺もありました。とにかく、詐欺グループは時流に敏感という印象ですね」

 詐欺師たちが電話する際に使用する名簿も、近年では精度が高くなり“オレオレ”ではなく、実際の子どもの名前で、電話をかけてくるケースもある。さらに一度詐欺に遭った被害者が詐欺師たちのリストに登録され、何度も被害に遭うことも多い。「そうした例を“おかわり”などと呼ぶようですが、名簿やリストはどんどん進化している印象があります」

 それにしても、なぜここまで被害が拡大しているのだろうか?「途中で詐欺だと気づいてからも、やり取りを続行して検挙する“だまされたふり作戦”などで実行役を検挙しても、彼らは犯行を指示した人間の本当の名前すら知らない。主謀者には、なかなかたどり着けないのです。特殊詐欺の検挙者の半分以上は反社会的組織と、なんらかの形で関わっているというデータはあるのですが……」

 しかし、この詐欺被害の特徴は「被害者の心理的な要因も大きい」と、芝山管理官は分析する。「被害者に話を聞くと、“絶対自分は大丈夫”と思っていた人ばかりです。テレビで見て知識もあって“絶対引っかからない”と思っていてもだまされてしまう。我々は“親心スイッチ”と呼んでいますが“これは自分の子だ”と信じた瞬間、スイッチが入る。そうなると、なんとしても助けなきゃ、と思ってしまうのです。この親心スイッチをオフにするには、他の人が何を言ってもダメで、子ども本人と話すのが一番。そして、実際に会って本人を確認するまで、絶対にお金を渡さない、これを徹底することですね」

 警視庁では銀行への要請を行い、水際作戦と言うべき対策も取っている。「お年寄りが大金を下ろす際、行員の方から“何にお使いになりますか?”といった形で声をかけてくださいと、お願いしています。いちいちうるさい、と腹を立てる方もいらっしゃいますが、この声がけで、5月末までに448件、12億5000万円の詐欺被害を未然に防いでいる。どうか、怒らないでくださいと、お願いしたいです」

 65歳以上の方が100万円以上を引き出したら、無条件で警察官が出動すると決めている署もあり、実に月150回以上も出動することになったという。

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