「中国国防相は、7月4日になって“空自機のほうこそ逆に中国軍機に接近し、射撃用のレーダーを照射(ロックオン)してきたのだ”と、踏み込んだ反論をしてきました。日本政府が公式に先方の攻撃動作を認めていないにもかかわらず、です。何か“逆ギレ”するような後ろめたい要素があったように見えてしまいますが……」(前同)

 むろん、萩生田官房副長官も、ただちに「ロックオンした事実はない」と、中国側の主張を否定。しかし、軍事ジャーナリストの井上和彦氏は、こう分析する。「中国という国は、日本から挑発行動を指摘されると、嘘をついて反論するのが常套手段。今回のこの反応は、明らかに中国側が攻撃姿勢を見せていたことを証明していると言えます」 さらに、こうした軍事的緊張は、東シナ海の上空にとどまらないという。むしろ海上で、より緊張が高まっているのだ。6月9日の未明、中国海軍のフリゲート艦が、尖閣諸島の久場島周辺の接続水域に侵入した。尖閣諸島周辺の接続水域で中国軍艦の航行が確認されたのは、初めてのことだ。

「接続水域とは、領海に隣接するエリアのこと。これまで中国海警局の船舶が日本の領海を侵犯した例はありましたが、戦闘力を備えるれっきとした軍艦が、日本の領土の目と鼻の先まで迫って来たことが重要です。ここまで軍艦を派遣してくるということは、中国の狙いが尖閣諸島にあることは間違いないですね」(海上自衛隊関係者)

 東シナ海の領土問題の中心である尖閣諸島だが、東シナ海でのガス田採掘をもくろむ中国は、ここに触手を伸ばし続けている。「中国は1992年、国内法で“尖閣諸島は中国の領土である”と勝手に定めました。以来、中国は、南シナ海で他国から島を奪った手法を東シナ海でも実行しようとしているんです」

 こう語るのは、元海上自衛隊海将の伊藤俊幸氏。伊藤氏は、その手法を「クリーピングエクスパンション(漸進的な膨張)」と呼ぶ。「(1)他国の隙に乗じ、まず漁船を出して牽制する(2)次に海軍を動かし、(3)そのうちに陸軍を島に上陸させて占領する――といった調子で、一気呵成に奪い取るのではなく少しずつステップアップし、目的を達成するという作戦です」(前同)

 この見方に従うなら、今回の中国軍艦航行は、尖閣諸島に対して第二段階に入ったことを意味している。「軍艦を動かしている以上、中国軍司令部の命令があったはずです。そう考えると、これは今後しばらく続くかもしれません」(同)

 本当に怖いのは、中国軍艦の接続水域航行が常態化して目新しい話ではなくなった頃だと伊藤氏は言う。「これに慣れると、メディアもいちいち報道しなくなる可能性があります。しかし、それは完全に中国の罠。こちらが関心を持たないでいる間、中国は確実に、次のステージへステップアップしていきますから、知らないうちに尖閣諸島が実効支配、または占領されていたという事態にもなりかねません」(同)

 さすがは中国四千年、なかなか気長に、しかし周到に“侵略”を進めてくるというわけだ。もちろん看過できる話ではないが、こうした挑発行動が一足飛びに全面戦争へと発展する危険性は少ないという。

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