そんな“小池の乱”に苦々しい思いを抱いていたのは、自民党の東京都連だけではなく、官邸もしかり。突然の出馬表明に、寝耳に水だった官邸は大混乱。萩生田光一官房副長官が「これはテロだ」と語気を強め、安倍晋三首相も激怒したという。政治評論家の浅川博忠氏は、こう解説する。「党推薦の増田氏と菅義偉官房長官は親しい関係。官邸サイドが激怒するのも無理はありません」

 小池氏はこれまで、細川護煕元首相の日本新党を皮切りに、(新生党時代の)小沢一郎氏、そして自民党の小泉元首相と、権力の側を渡り歩き、常に脚光を浴びてきた。だが、あるときから風向きが変わる。自民党に入ってからは清和会(入党時は森派)に所属したのだが、ある“ポカ”をやらかした。

「08年の総裁選で清和会は、麻生太郎財務相(当時)を推すことで一致していましたが、小池氏は中川秀直元官房長官にほだされ、自ら出馬しました」(政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏) それは、同派閥のドンと呼ばれる森喜朗元首相を激怒させるに十分だった。また、12年の総裁選では、森氏も推した安倍氏のライバルとなった石破茂地方創生担当大臣を支援した。

「それ以来、都連や官邸以上に、小池氏を毛嫌いしているのが森さんです。“ガリガリの出世亡者。あんな女、俺が政治生命を断ってやる”などと言っていた話は有名です。ある意味、権力にすり寄る小池氏の政治手法を見抜いていたわけで、森さんは小池氏にとって天敵。相手は首相経験者ですからね。特に12年の総裁選で石破氏を応援してから小池氏は、第二次安倍政権発足後、冷や飯を食わされる立場に追いやられました」(清和会関係者)

 一時は初の女性首相に一番近いといわれた小池氏だが、以降、臥薪嘗胆の日々。そして、反撃の機会を虎視眈々と狙っていた彼女に訪れたチャンスが、今回の都知事選なのだ。

「彼女は6月から出馬する意向を持っていました。都連の推薦があればよし。なくても、かつて小泉元首相が“自民党をぶっ壊す”と言ったように、“都連をぶっ壊す”と言えば、票を稼げると読んでいたんです。ある意味、“師匠”とも言うべき小泉元首相の政治手法をマネているわけです。そして万が一、落選しても、安倍自民に風穴を開け、森元首相や官邸に意趣返しができると考えたのですよ」(前出のベテラン政治記者)

 一方、選挙前から、こんな話もささやかれていた。「実は、事前に小池氏が小泉さんに相談を持ちかけ、小泉さんは“いいんじゃないか”と賛同し、密かに応援を約束したというのです」(永田町事情通)

 選挙期間中、永田町を駆け巡った情報はそれだけではない。石破氏が小泉元首相を小池氏の“裏の応援団長”とするために奔走していたという噂が、それだ。「小池氏が石破氏に出馬する旨を伝えていたのは事実です。むろん、さすがに石破氏も露骨に小池氏を応援することはできませんが、配下の議員が個人的に応援していました。小池氏の応援演説に立った若狭勝衆院議員も石破派。“党を除名されても”という覚悟で応援していたようです」(前出の鈴木氏)

 どうやら、小池氏本人や、彼女を密かに支援する“小泉・石破連合”には、都知事選による分裂選挙が中央政界へ及ぼす影響に期待している節があり、しかも、それは半ば成功、すでに戦果を挙げているという。

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