全国17都道府県のコンビニのATMから、18億円以上の金が、偽造カードで引き出される事件が起きた。続々と出し子と呼ばれる引き出し役が逮捕されており、事件に使用されたと思しきマニュアルが回収されながらも、事件の全貌が見える兆しはない。
「いわゆる振り込め詐欺ではないが、出し子と金を受け取り、上層部に運ぶ人間がいる役割分担など、その組織系統には共通点が少なくない。実働部隊の出し子が、組織系統を把握できていないというのは、その最たる例だ。これは振り込め詐欺グループの新たな一手という見方もある」と捜査関係者は説明する。
もはや、食傷気味の感すらある振り込め詐欺だが、まるで治りの悪い病のように、被害額は今も増大している。実働部隊から組織の上までたどることができないということ以外に、振り込め詐欺は、若者が高齢者を騙すという卑劣性が大きな特徴だったのだが、根幹から揺るがす驚愕の事件が、今年5月に起こった。
「この事件は、株取引の協力を募るという手口で、いわゆる振り込め詐欺ではない。ただ、電話で騙す役の掛け子、現金受け取り役の受け子がいる点など、組織系統は同じです。いわゆる特殊詐欺と総称されるバリエーションの一つ。騙され、むしり取られるのが高齢者という点も振り込め詐欺と同じです」(全国紙社会部記者)
ではいったい、この詐欺の何が“驚愕”だったのか。それは件の報道の通り。逮捕されたのが、62歳から78歳の無職の老人たちだったのである。某広域団体の組員が苦笑して打ち明ける。
「地元の飲み屋の昔馴染みの爺さんが、俺に名簿とトバシの携帯が欲しいと頼んできたことがあった。何に使うんだと聞いたら、“若いやつが老人を食い物にするなら、俺たちがやってダメって話はないだろう”と真顔で言われたよ」
頼まれた一式を用意すると、その老人は、しばらくして虎屋の羊羹と一緒に、稼ぎのパーセンテージを持ってきたそうだ。この組員は今後、この手口はまだ増えると予測するが……。若者が老人を騙すのは卑劣だが、老人が老人を騙す社会は悲惨極まりない。