また、福島労働局が福島第一原発の廃炉作業に当たる724事業者につき監督指導した最新結果(15年9月末現在)によれば、実に56.5%に当たる409業者で割増賃金の未払い、放射線量の測定をしないなどの違反があったという。

 一方、宿舎の住環境についても、地元でこんな話を聞けた。「同じような宿泊所は原発周辺にいくつもあります。事故当初は、いわき市内の旅館を借りるなどしていましたが、山間の遊休地に安い中国製プレハブを建てたほうが安上がりだし、管理もしやすいですからね。今回の話も、1週間も寝込んでいる人を病院に行かせないなんて、第三者の目がないからできること。実態は昔の“タコ部屋”と同じでしょう」(地元事情通)

 最後に光子さんは言う。「主人は、地元の方が作業頑張ってとの思いで折ってくれた鶴を大切に保管していました。福島に行くとき、“未来の子どもたちのために放射能浴びて来るんだ”とも言っていました。だから納棺の際、その鶴を入れてあげました。主人なりに誇りを持って作業員をしていたんです。でも、こんな野垂れ死にのような形で……。他にも、同じように亡くなった方はたくさんいると思います。そんな犠牲のもと、事故になれば将来の子どもに責任を負えない放射能が出る原発の再稼動を目指していいのか、もう一度、考えていただきたい」

 東京電力が毎年公表しているデータによれば、今年3月末までの1年間の作業員の死傷者数は26人、うち死者は1人に過ぎない。だが、今回の山岸さんのような、作業中でない死はカウントされておらず、こうしたケースを含めれば、かなりの犠牲者が出ているとの見方もある。

 放射能が原因かは分からないが、危険を覚悟した50歳作業員の早すぎる死。こんな状況が、震災から5年以上経った今も起きていることを、原発再稼動に邁進する政府は、はたして知っているのだろうか。

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