なぜ「広島カープ」は、“前田健太なし”でも優勝できたのか?の画像
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 今世紀中の優勝は無理とまでいわれた“弱小球団”が序盤戦からぶっちぎり、異例の早さでペナント奪取を決めた。その「理由」をあらゆる角度から分析!

 “絶対的エース”だったマエケンこと前田健太(28)がメジャーに渡り、圧倒的な戦力ダウンといわれた今シーズンの広島カープ。だが、蓋を開けてみたら、5月22日に首位に立ち、6月の交流戦で他球団を引き離すと、そのまま独走態勢に入り、異例の早さでぶっちぎり優勝を成し遂げた。こんな展開、開幕前にいったい誰が予想しただろうか。

「81勝のうち41勝が“逆転勝ち”(数字は9月9日現在=以下同)なんです。まさに“神がかり”的ですね」(全国紙野球担当記者)だが、“神がかり”だけで長丁場のペナントレースを勝ち抜けるほど、プロ野球は甘くない。その強さの秘密を探っていきたい。

 まずは投手力から。広島のチーム防御率は3.27。投手陣が、リーグトップの防御率を維持したことが優勝へとつながったのだ。「臨時コーチに招かれていた元広島の安仁屋宗八さんが“投手たちの目の色が変わった”と言っていました。マエケンがいなくなって危機感を覚えた投手陣が、意識を変えた証拠です。どうやら、マエケンの穴がプラスに作用したようですね」(スポーツ紙デスク)

 その筆頭とも言うべき存在が野村祐輔(27)。キャンプの段階から自分をいじめ抜いた結果、14勝3敗、防御率2.96で、優勝に大きく貢献した。「それまでのチェンジアップに頼っていた守りのピッチングから、シュートを多用する攻めの投球に変えたことが功を奏しました。また、シュートを生かすために、プレートを踏む位置を一塁寄りに変えたことも大きい」(広島担当記者)

 昨年、最優秀防御率投手のタイトルを獲得したジョンソン(31)の存在も大きい。今シーズンの14勝(6敗)は野村と並ぶハーラートップ。防御率も2.22と抜群の安定感を見せた。また、逆転勝利が多いということは、試合の中盤以降の失点が少ないということ。その要因が、盤石のリリーフ陣にあったことは言うまでもない。これこそが、優勝への鍵であったことは間違いないだろう。

「時速150キロのストレートと、切れ味鋭いスライダーで三振の山を築いたジャクソン(28)をはじめとした豊富な中継ぎ陣から、32セーブを挙げている守護神・中﨑翔太(24)へつなぐ“勝利の方程式”が完成したことが勝因ですね。前田という先発完投型のエースを欠いた広島は、中継ぎ強化に徹して、それが成功したんです」(前同)

 ジョンソン、ジャクソンに続くもう一人の助っ人・ヘーゲンズ(27)も中継ぎ(8月からは先発)で活躍。7勝(3敗)19ホールドを挙げている。4人の外国人枠のうち、3人を投手に割いているところからも、今年の広島が、いかに継投にこだわったかが見て取れる。こうして広島は、マエケン不在というマイナスをプラスに変えたのだ。

 しかし、いくら投手陣が盤石でも、点を取らずに41試合もの驚異の逆転劇を演じることはできない。今年のカープ打線は、実に強力だった。

「田中広輔(27)を不動の1番に据えることができたのが大きいですね。これによって、菊池涼介(26)、丸佳浩(27)を定位置の2番、3番に据えることができました。昨年は、この“キクマルコンビ”が不振でしたから、打順を固定できなかったですからね」(前出のスポーツ紙デスク)

 この不振から脱却すべく、“キクマルコンビ”は昨オフに猛練習。打撃改造に取り組んだ結果、菊池は打率.323、54打点で13本塁打、丸は打率.295で85打点、19本塁打と、昨年とは見違えるような成績で、広島の快進撃を牽引した。

 ちなみに、この3人は守備や走塁の面でも大活躍。「菊池-田中は“鉄壁の二遊間”ですね。特に菊池の守備範囲の広さは球界随一です。この2人が、どれだけヒット性の当たりを防いだことか。投手はだいぶ助けられましたよね」(前同) 半世紀前の古葉-阿南による“鉄壁の三遊間”を彷彿させる名コンビの誕生。これぞ堅守の広島野球だ。

 そして機動力。広島の盗塁数はセ・リーグで断トツの109なのだが、「そのうち59が、この3人によるもの。巨人全体の56より多いんです」(同) 上位3人が塁に出て、かき回す。そして、それを還すのが4番の役目だ。その役目をきっちり務めた4番打者が、“帰ってきた男”新井貴浩(39)だ。

「通算2000本安打と300本塁打を達成するなど、乗りに乗っています。上位3人が好機を作っているのもありますが、とにかくチャンスに強い。打点98はDeNAの筒香やヤクルトの山田を抑えてリーグ1位です。記者の間では今、最もMVPに近い男と言われています」(同)

 彼のようなベテランの頑張りが若手に刺激を与え、相乗効果をもたらしているのだろうか。その象徴とでも言うべき存在がいる。それが、今シーズンに大ブレイクした鈴木誠也(22)だ。「鈴木は、6月17~19日の対オリックス3連戦で、第1戦、第2戦に2試合連続サヨナラ本塁打、第3戦でも3試合連続となる決勝本塁打を放って、緒方孝市監督から“神ってる男”の称号を受けましたね」(同)

 その後も、鈴木の勢いは衰えず、打率.335、24本塁打、85打点という見事な数字を残している。投球、打撃、守備、そして走塁。すべてが高いレベルにあり、若手とベテランがうまく噛み合った今年の広島が優勝するのは、“神”のいたずらなどではない。当然過ぎるほど当然の“結果”だったのだ。

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