A氏の例を見ていくと、現在の架空請求詐欺に特徴的なことがいくつかある。その1つが電子マネーだ。A氏は最初の10万円と20万円を、コンビニで電子マネーを買って支払っていた。具体的にはカードタイプのAmazonギフト券。これは、ネット上で流通する金券で、購入者がカード裏の番号を打ち込み使用する。番号の情報のみが重要で、詐欺グループは被害者に番号を撮影させ、メールで送らせるという。ちなみに電子マネーにはシートタイプも存在する。コンビニのマルチメディア端末で電子マネーの種類と金額を選択し、出力されたレシートをレジに。そこで金を支払い、プリペイド番号が記載された通知票を受け取る。オンラインショップなどで支払う際、この番号を入力するだけでOKとなる。

「被害者が購入した電子マネーを犯人が売る場合に氏名、住所、生年月日等の入力を求められることもありますが、入力された内容がデタラメなことが多く、足取りを追うことが非常に難しいのです」 電子マネーは、特殊詐欺全般で受取方法として近年増加の傾向にある。「しかし、大量購入などの場合、声掛けや警察への通報などの協力をコンビニエンスストア側に要請していています。その結果、未然に防止したケースが今年の上半期だけで48件、金額にして約1082万円あります」

 奪おうとする金額が高額の場合、従来のATM振込に代わり、近年目立つのがバイク便を使った例だ。今年上半期の特殊詐欺被害金等の受取方法に占めるATM振込は11%で、実に77%がバイク便などを悪用した手渡しによるもの。A氏のケースでも、3回目以降の350万円、400万円はバイク便が利用された。

「ただし、警察から正規のバイク便大手業者に対しては、荷物が現金でないかどうかの確認や警察への通報を要請しています。その結果、現在では現金を扱うバイク便は、ほとんどがバイク便を装った受け子です」 正規、偽装を含めバイク便を使った被害は今年上半期だけで42件と、昨年1年間の40件を上回っている。今後とも注意を怠るわけにはいかないだろう。

「最近の架空請求詐欺では、見慣れない番号から着信があり、折り返すと自動音声ガイダンスが流れるものもあります。“未納の料金について知りたい方は1、裁判を中止したい方は2、を押してください”などと案内し、番号を押すと騙し役につながるわけです」 そうした騙し役の脅し文句としては未払い金を払わないと「給料を差し押さえる」「身辺調査をする」「裁判にかける」など強硬手段に出ることを伝えるパターンが多い。思い当たるフシがある人も多く、恥ずかしさから、数万円ならと払ってしまうことも多くなる。しかし、A氏のように一度でも支払えば、あの手、この手でたたみかけてくるのが詐欺集団の手口。こうした凶悪な詐欺を働くのはどんな輩なのだろうか。

 警視庁は今年上半期で、特殊詐欺に関して294人を検挙(騙されたフリを続けての「現場設定検挙」は117人)している。そのうち131人(45%)が反社会組織構成員等、反社会組織となんらかのつながりのある者とみられている。「オレオレ詐欺と同様、10代から30代で全体の87%を占めていますね。検挙人員の48%が、金を受け取る末端の受け子です。受け子はリスクが高く、従来1万円だったギャラが、最近では5万円に上がったりしているようですが、確保に苦労しています。受け子を捕まえても、本当に彼らは上が誰なのか知らない。完全な分業制で首魁(しゅかい:首謀者のこと)を捕えるのは難しい。ローリスク・ハイリターンなシステムを作り上げているんです」

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