健康のためにやせようとしたのにやり方を間違えて逆に体を壊す…そんな悲劇を防ぐため、はやりの減量法の「ウソ・ホント」を検証!
日一日と深まる秋。「食欲の秋」そして「運動の秋」ゆえに、改めて下っ腹が気になり、ダイエットを始めようとする諸兄も多いはず。だが、無理は禁物。ダイエットも間違ったやり方で行えば、効果がないばかりか、逆に健康を害するのだ。ダイエットの何がよくて何がダメなのか? 気をつけるべき点を調べてみた。
まずは、なんといっても日々の食事から。食事といえば、最近よく聞く「糖質制限」。これがなぜダイエットにつながるのか、米イリノイ工科大学元助教授で、著書『間違いだらけの健康常識』(角川oneテーマ21)で糖質制限についても取り上げている生田哲氏(薬学博士)が解説する。
「通常1日200~300グラム必要といわれる糖質(主にご飯、パン、麺類などの主食)は、摂ってすぐエネルギー源になります。この摂取量を抑えることで、体についた余分な脂肪が代わりにエネルギー源として使われ、やせるのです」
これは確かに理にかなっており、短期間でかなりの効果があると生田氏も言う。だが一方で、糖質制限ダイエットが40年も前にブームになった米国では、2010年のハーバード大学の調査によって、がん死亡率1.7倍、心筋梗塞死亡率1.4倍など早死にするリスクが高まることも判明しているというのだ。
「糖質制限は、糖質を摂らない分、おかずはたくさん摂れるし、酒(糖分の少ない蒸留酒)も控えなくていいと人気。ですが、主食を完全に抜いてしまうと、ビタミン、ミネラル、食物繊維という、きわめて重要な栄養素が不足してしまうのですよ」(前同) つまり「糖質=太る」と決めつけて完全に排除するのは、やりすぎということ。ただし1回のご飯の量を減らすなど無理のない方法であれば、オススメだという。
同様に、「油=太る」と思い込んで脂分をまったく摂らなかったりするのも禁物。脂質を抜くと、食物に含まれる脂溶性のビタミンを摂取する効率が悪くなり、血管が弱くなったり、髪や肌が傷んだりもする。髪は中高年にとって死活問題。「脂ぎったオヤジ」などと言われようと、健康のため、髪のため、週に数度は揚げ物も食べていいのだ。
こうした糖質や油も含め、食物から摂るカロリーは、「太る」というイメージに直結しがちなので、とにかく摂取量を抑えればやせるに違いないという向きもある。だが、生田氏はこの考えにも警鐘を鳴らす。「断食なども流行っていますが、もちろん、エネルギーを摂らなければ体重は確実に減ります。ですが、やせるというより“やつれる”というほうが正解でしょう。そして、反動で食べ過ぎてリバウンドしやすくなります。断食は脂肪だけでなく筋肉も落とすため、結果、基礎代謝量が減り、逆に前より太ってしまうことも大いにありえますよ」(同)
急激にやせてリバウンド……というのを繰り返していると、ある恐ろしい事態を招くことにもなるとか。「肝臓の働きの一つに、余分な脂肪を吸収し、足りなくなると血中に送り出すというものがあります。急激にやせて肝臓が空っぽになった場合は、皮下脂肪から血中に脂肪が供給されますが、このとき、肝臓は飢餓状態のあまり、その脂肪をかき集め始めるのです。その後いきなり食事量が元に戻り、摂った脂肪が一気に肝臓に流れ込んだ結果、短期間で脂肪肝から肝硬変に、ということも起きるのです」(内分泌系の専門医)
1日1食や2食に減らして総摂取カロリーを抑えようという考え方も、百害あって一利なしだという。「食事回数が少ないほど1日のうちの血糖値の上下が激しくなります。上がったときのインスリン分泌が激しくなった結果、低血糖になったり、逆に本当に必要なときにインスリンが枯渇して糖尿になりやすくなったりも」(前出の生田氏)
逆に、こまめに軽い食事を摂る(おやつなどの間食も含む)1日4~5食主義のほうが、血糖値の上下が1日3食よりも小さくなり、望ましいそうだ。こうしてみると、やはり、極端な食事制限は健康を保つためには禁物ということらしい。運動するにしても、まず食生活を整えてからだと、新潟大学名誉教授で、『人はなぜ太るのか――肥満を科学する』(岩波新書)の著書もある岡田正彦氏(医学博士)は言う。
「肥満解消の基本は、食事に気をつけることです。そのうえで、なぜ運動も必要かというと、運動の結果、筋肉がついて基礎代謝量が増えることで、大きくリバウンドしにくい体質になるから。加えて、食事制限だけだと長続きしにくいですが、運動も取り入れると“これだけやってるんだから”と、やる気も出ますからね」