謎その5:昭和天皇も生前退位したかった?

 皇室典範は戦後、米国中心のGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の下、憲法と同様に改正が行われた。しかし、その内容の多くは戦前から引き継いだもので、天皇の行為は内閣などが認める国事行為に限定され、戦前まで非公開とされた皇室典範が公開されるようになり、皇室会議なども民主化された以外、天皇の終身制などはそのままにされた。

「事実、敗戦直後と、極東国際軍事裁判の判決時(1948年)、サンフランシスコ講和条約による独立時(1951年)に昭和天皇は『生前退位』すべきだという意見、これはかつての内大臣だった木戸幸一や当時、衆議院議員であった中曽根康弘などが主張したものですが、そこで天皇自身もその旨を側近に漏らしたとも伝えられています。しかし、そうなると、ときの首相であった吉田茂もセットで退陣ということになる。しかも、東西冷戦の時代にあって、この時期の退位は、共産党などの国内における天皇制反対を唱える勢力を拡大化させるという意味もあり、天皇をそのままにしておきたいという勢力が優勢を占め、退位の話はないことになりました」

 そうしたことを考えると、現在の安倍政権は占領国による“押しつけ憲法”はダメで、自主憲法を作るということを声高に主張しているのに、天皇の問題では、戦後一貫して何も考えずに放置してきた流れを、そのままにしているようにも見える。

 現憲法における「国民統合の象徴」であり、「国民の総意」によって位置づけられている天皇陛下という存在について、今一度、国民が真剣に考えるためにも、過去、時々の政府や権力者によって翻弄されてきた天皇という存在に目を向けることが必要なのかもしれない。

※歴代の生前退位した天皇たちと、それを取り巻く政治状況を通して今上天皇の「生前退位」お気持ち表明を考える話題の新刊『日本人が知らない「天皇と生前退位」』(八柏龍紀著=1000円+税)は絶賛発売中!

本日の新着記事を読む

  1. 1
  2. 2
  3. 3