人類の寿命の限界は125歳?「不老不死」研究の最前線

 古来より誰も手に入れたことのない限りなき命。現代医学はその鍵を握る遺伝子を発見。長寿を導く生活術も突き止めた!

 人はいったい、何歳まで生きられるのか――!? 古今東西、永遠の命を実現する「不老不死」は人類の夢だった。しかしこのほど、イギリスの有力科学雑誌『ネイチャー』(Nature Publishing Group)に、「人間の寿命が125歳を超えることは難しい」とする論文が発表された。

 アメリカのアルバート・アインシュタイン医科大学の研究チームが約40の国と地域で死亡統計データおよそ100年分を解析。特に、110歳以上の人口が多い4か国(フランス、日本、イギリス、アメリカ)で、毎年亡くなった人の最高齢を分析した。そして、「世界最高齢の人が125歳を超える確率は1万分の1未満」と結論づけたのである。本当に、人は125歳までしか生きられないのだろうか。“寿命”という神秘に迫った。

「実を言うと、人間は生まれたときから死ぬことが義務づけられています」と話すのは新潟大学名誉教授の岡田正彦氏。不老不死を信じたいという読者にはのっけから残念な話だが、それには明確な理由がある。岡田氏が続ける。

「地球環境は空気の組成を含めて何万年というスパンで刻々と変化しています。そこで、人間の遺伝子(DNA)も、それに適合させていく必要があります。たとえば、地球が寒冷期に向かうとしたら、その環境に適した遺伝子へ改変しない限り、種としての人間は滅びてしまいます。ところが、人間の遺伝子は1個体の中で改変することはできません。遺伝子の組み換えが起きるのは世代交代の際。親から子が生まれ、少しずつ、遺伝子を改変していっているんです」

 1個体が生き続けてしまうと、“肉体の世代交代”は起こらない。「つまり、種の保存を図るには、不老不死はあってはならないこと。そこで、個体(個人)が死を義務づけられるようにプログラムされるわけですが、その大本がテロメアです」(前同)

 聞き慣れない単語だが、このテロメアこそが寿命を握る“司令塔”なのだ。「遺伝子の束である染色体は、各細胞の中に1個ずつ入っています。その染色体の末端部分に数珠状になってぶら下がっている構造物をテロメアと呼んでいます。テロメアは、細胞分裂を繰り返すたびに一つずつ、“数珠”が取れて短くなっていきます。そして、“数珠”がすべてなくなったとき、その細胞は分裂することができず、死滅することになります」(同)

 テロメアは加齢によって少しずつ短くなり、個々の細胞が死滅してゆく、いわば“老化時計”のようなもの。そして、“数珠”に限りがある以上、いつかは全細胞が死滅し、同時に個体の生涯が終わる。これが「寿命」のメカニズムでもある。では、人間は何歳まで生きられるようにプログラムされているのだろうか。「結論ははっきりしませんが、理論上では、だいたい140歳から150歳だという説があるんです」(同)

 そうなると、『ネイチャー』に発表された「寿命125歳説」と矛盾するが、あくまで、「寿命150歳説」は、プログラムされた最高寿命の話だ。人間、生きているとさまざまな“摩耗”があり、必ずしも、“プログラム寿命”を全うできない。「その寿命を短くしている要素の一つに、フリーラジカルがあります」(同)

 フリーラジカルとは、分子の一部に欠損が生じた物質のことで、その代表格が活性酸素だ。実はこれ、体内の“過激分子”とも呼ぶべき存在。「活性酸素は自らに欠損があるので、正常な分子からその欠けた部分を奪い取ろうとします。そして、奪い取られた分子は、自らフリーラジカル化、つまり過激化し、今度は別の分子を攻撃して欠損部分を奪い取るんです」(同)

 人間の体内で、この“報復の連鎖”が生じると当然、健康上のリスクは増加。活性酸素が血管を攻撃すれば動脈硬化になり、遺伝子を攻撃すると細胞ががん化することになる。

 簡潔に述べるなら、「プログラム寿命(150歳)-活性酸素による“報復の連鎖”=個体寿命」という公式が成り立つそうだ。活性酸素が大暴れし、どの個体もプログラム寿命を全うできず、個体寿命が短くなってしまうこの“公式”を、「活性酸素寿命(老化)コントロール説」という。であれば、人間の寿命は活性酸素によって短く削られていくしかないのか――。

 しかし、それを覆す朗報が最近になって出てきた。活性酸素によって短くなった寿命を取り戻し、かつ、それ以上に伸ばせる“ツール”が発見されたのだ。

 それがズバリ、「長寿遺伝子」と呼ばれる遺伝子群。長寿遺伝子研究の権威である白澤抗加齢医学研究所の白澤卓二所長は、こう話す。「線虫の実験で長寿遺伝子の存在はまず、確認されました。1万9000ある線虫の遺伝子のうち、100個ほどの遺伝子を活性化させることによって、線虫の寿命が平均で1.5倍、長いもので5倍も延びることが確認されたんです」

 ショウジョウバエで行った実験でも、同様の結果が得られたという。「実験では、長寿に関係する遺伝子群をカテゴリー別に分類しました。すると、最も多かったのが、代謝に関係する遺伝子群でした。その中でも、糖代謝が寿命を延ばし、かつ、寿命をコントロールすることが分かってきたんです」(前同)

 他方、この実験とは別の研究でも、カロリー制限が長寿に関係することが明らかになっている。最も効果的だったのが糖質の制限。これらの結果から、カロリー制限が長寿に結びつくのは、糖代謝に関係する長寿遺伝子の働きによるものと考えられるようになったのだ。「まず糖を制限すると、糖尿病や肥満になりにくくなります。たとえば、糖尿病にかかると、人間の寿命は10~13歳短くなります。逆に言うと、糖尿病にならなければ、それだけ寿命は延びるわけです」(同)

 糖代謝をコントロールする長寿遺伝子が、寿命のカギを握っているのだ。「もう一つ重要なのは、糖質が制限されると、活性酸素の働きを抑える働きをするケトン体という物質が体内に生まれることです。ある実験で、活性酸素が活発化する農薬をネズミに注射すると、そのネズミはすぐに死んでしまいます。ところが、ケトン体を点滴したネズミは死なないことが分かっています」(同)

 長寿遺伝子は、糖尿病の発生を抑えるのみならず、“長寿の天敵”である活性酸素にも効き目があったのだ。さすがは長寿という名がつくだけのことはある。しかも、それだけではない。長寿に関する最も多かった遺伝子群は代謝に関係するものだったということは先に述べたが、「次いで多かったのはサーチュインと呼ばれる遺伝子群です。サーチュインは7種類の長寿遺伝子からなり、私が注目しているのは6番目の遺伝子(SIRT6)。この遺伝子が、テロメアをガードすると考えられているからです」(同)

 なんと、この遺伝子は“老化時計”そのものに働きかけるというのだ。不老不死は夢だとしても、それにより近づくことはできるかも……。なんだか、希望が湧いてくる。

 これらの取材結果から、どうすれば寿命を延ばせるかをまとめると、まずは、“長寿の天敵”である活性酸素の発生を抑えることが先決となる。そして、長寿遺伝子のスイッチを「オン」にすること。長寿遺伝子は常に働いているわけではないからだ。この相乗効果で、確実に寿命は延びるはずだという。では、活性酸素の発生は、どう抑えたらいいのか。

 実は、活性酸素を発生させる5大元凶は次の通りだ。(1)紫外線(2)排気ガスなどの有害物質(3)宇宙線(4)煙草の煙(5)レントゲンなどの放射線

(1)から(3)は、外を歩けば必ず浴びてしまうもの。(4)の煙草は、禁煙すればいいというものではない。他人が吸った煙草の煙(副流煙)も元凶の一つだ。(5)については、「私の計算では、胸のレントゲンを毎年撮ると、肺がんのリスクは約2%高まります。活性酸素を抑制するためにも、レントゲンは避けたほうがいいでしょう」(前出の岡田氏)

 一方、長寿遺伝子を常に働かせるには、どうすればいいのか。「やはり、糖質制限が一番ですが、特に制限すべきは砂糖ですね。砂糖を食べると、長寿遺伝子はスイッチオフの状態になります。専門的に言うと、砂糖は長寿遺伝子を不活性化させるんです」

 こう語る白澤所長が問題視する砂糖とは、添加糖というもの。「これは、袋詰めされたパンや袋入りのスナック菓子類、デザート類といった、香料や乳化剤、人工甘味料を多く使用している超加工食品に含まれています。よく“甘いものは別腹”と言いますが、砂糖には常習性(麻薬性)があり、アメリカ人は、総カロリーの約6割を超加工食品から摂取しているんです。まず、これらの摂取を止めるべきです」(前同)

 長寿遺伝子のスイッチを入れ、活性酸素の発生を抑えることで、どこまで不老長寿に近づけるか。試してみる価値はありそうだ。

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