「お経、っていうのは歌い方が暗かったから。詞の内容じゃなくてね。歌い方がまあ辛気臭い、と言ったんじゃないですかね。むしろ、お経といえば、SMAPですよ」

 SMAPの『世界に一つだけの花』(作詞・作曲/槇原敬之 2003年3月発売)。彼らの最大のヒット曲で、21世紀に日本国内で発売されたシングルCDで最高売り上げ枚数となる285万枚以上を記録したこの曲は、仏説阿弥陀経がきっかけでできたのだという。

 仏説阿弥陀経の中に「青色青光黄色黄光赤色赤光白色白光」という経文がある。大意は「極楽浄土では美しい蓮の花が咲き乱れ、青、黄、赤、白の花がそれぞれ光を放っている」ということだが、この経文に槇原が触れ、あの国民的名曲が誕生したのだ。

 99年3月、槇原は薬物違反で執行猶予の有罪判決を受けた。その後、寺で謹慎していた槇原に、住職が阿弥陀経の理を説いた。「浄土ではさまざまな花が咲いているが、それぞれが、それぞれの個性の上に無上の尊厳を認め合い存在している」という言葉を聞いた槇原の頭に浮かんだのが、『世界に一つだけの花』の歌詞だったという。

「住職も立派ですよね。諭したんだから。でも、そのお経の中の一節をヒントにしたということが、彼の才能ですね。やっぱり並みじゃないです。あれだけ反省して、そして修行して掴んだわけですから。槇原さんからは、ときどきLINEが来ますよ」

 ヒット曲の持つ力をここまで見てきたが、歌自体にも底知れない力がある。「歌を歌うと、α波という脳波が出ます。それが気持ちをとてもよくする。それから、βエンドルフィンとか、いろんな神経物質が出て気分がよくなる。軽い脳梗塞の人には、リハビリで歌を歌いなさい、と言われますからね。最後に、歌はやっぱり詞なんです。詞が人を動かす。もちろんメロディーもありますが、まず詞が人の気持ちを動かすんです」

 いつの世も人を支えてきた歌。これからも、数々の名曲が生まれ、歌われていくに違いない。

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