金の問題が選挙に影響するのは、どの国でも同じだが、それだけではないという。大野氏はヒラリー氏の政治家としての能力にも疑問符をつける。

「彼女が大統領選を争うまでの地位に上り詰めたのは、夫であるビル・クリントン元大統領の威光があったからこそ。ビルがいなければ、そもそも政界入りもかなわなかったはずです。彼女は決して仕事ができるタイプではありません。それは、国務長官時代のベンガジ事件を見ても明らか。危機管理能力に欠点があるんです」

 ベンガジ事件とは、2012年9月11日にリビアのベンガジにある米領事館とCIAの活動拠点がイスラム過激派に襲撃され、死者が出た事件。このとき、ヒラリー国務長官(当時)は、事前にたび重なる警告を受けていたにもかかわらず、セキュリティ強化を命じなかったという。

 本当は叩けば“ホコリまみれ”だったヒラリー氏だが、「大統領はウォール街が決める」との不文律が働き、これまで、あえて“優位”という歪められた情報が喧伝されてきたようだ。

 トランプ氏の大統領選を応援し、『トランプ革命』(双葉社刊)の著書のある共和党全米委員会顧問でアジア担当のあえば直道(じきどう)氏は、「世論調査では表に出てこなかった“隠れトランプ票”が、今回の選挙でかなり上積みされましたね。“隠れトランプ票”とは、体裁が悪いので表立ってはトランプ支持を明言しないけど、本当は支持者である人たちの票です」

 これまでの世論調査では、トランプ支持の数字は約5%程度低く表れていたともいわれ、それが今回の選挙結果につながったようだ。こうした“隠れトランプ現象”を、日本政府も見過ごしていた。

「安倍首相は大統領選の最中、ニューヨークでヒラリー氏と会っています。選挙戦の最中、一方の大統領候補と日本の首相が会うことは、極めて異例なこと。これは、知日派で“ヒラリー政権”で要職を務めることになっていたカート・キャンベル元国務次官補からの要請でした。一方、野党・民進党の長島昭久衆院議員はアメリカ中枢に情報源があり、事前に“トランプ勝利”の情報をつかんでいたようで、トランプ側近と10月に接触しています。トランプ当確を受けて、安倍首相周辺は長島氏を官邸に呼び、情報収集したともいわれています」(全国紙政治部記者)

 安倍首相としては、“後手に回った”感が強いのだ。「首相はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を、陰りが見えるアベノミクスの起爆剤にしようとしていました。実際、8日に衆院でTPP承認案と関連法案が可決される見通しになっていたんです。ところが、大統領選の投票3日前になって“トランプ優位”という情報をつかみ、8日の採決をいったん見送る決断を下しました」(前同)

 トランプ氏がTPPからの撤退を公約に掲げているのは事実。前出のあえば氏も、「(TPPは)議会からの評判も悪く、仕切り直しになるでしょう」という見通しを持っている。安倍首相としては、ハシゴを外されたようなものだ。

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