陣内孝則「下手くそで恥ずかしい思いをしてからが、本当のスタート」恥をかいて意地を掴む人間力

 僕らの仕事は、恥をかいてなんぼなんだなと思います。昔、読んだ本に“恥をかいて意地を掴む。それが男の修行というものだ”って書いてあって、まさにその通りだなって思いますよ。下手くそで、恥ずかしい思いをしてからが、本当のスタートですよ。下手なやつのほうが伸び代は大きいわけですしね。斜め45度に身構えて、いい男を演じるのもいいと思うんですが、それより人間臭さを見せるような、芝居のほうがずっとおもしろい。僕はそう思うんですよ。

 昔は、陣内孝則っていうキャラクターを作り込もうと思って、気取っていた時期もありましたけどね。50歳を超えてから、『徹子の部屋』に出させてもらったんですが、そこで、初出演したときの映像を見せられたんですよ。当時は、トーク番組でタバコが吸えたので、徹子さんが一生懸命質問してくれているのに、タバコをふかしながら、“そうっすね”みたいに気取っていた(笑)。

 めちゃくちゃ恥ずかしかったですよ。徹子さんに“失礼な態度で、すみません”って謝ったら、“あの頃は私も我慢強かったわ”って(笑)。当時は、アウトロー映画とかの仕事も多くて、スカしたかったんでしょうね。でも、役者として、一番最初に評価してもらえたのが、84年の舞台での演技だったんですが、それが、とんでもない医者の役だったんです(笑)。

 アウトロー映画と並行して、トレンディドラマでコメディをやっていましたしね。30代の頃には、もうスカして、かっこつけていてもしょうがない。全部さらけ出すしかないなって腹を括りました。

 僕らの仕事って、マイナス要素が重なれば重なるほど、プラスに転じたときに爆発すると思うんですよね。映画だってそうですよ。“これは当たるぞ”っていう映画が当たった試しがないですよ。何年か前に出演させてもらった映画では、試写会のときに誰一人、クスリとも笑わなかった。お偉いさん方も“ダメだな、これ”って言っていたんですから。

 でも、いざ公開されたら好評で、興行的にも大成功だったんです。成功には1000人の父がいて、失敗は孤児なんて言葉がありますけど、大体当たった映画は“あれ、おれ”って人が大勢出てくるけど、ハズれると、みんな知らんぷり(笑)。

 音楽で食っていこうと、21歳で上京した時も親からは、“歌で売れるわけがないだろう”って散々言われましたよ。僕の生まれは福岡県の大川という家具の街で、曾祖父から3代続く職人の家庭でしたから、親父も継いでほしかったのかもしれません。その反対を押し切って芸能界に飛び込んだんですよ。

 それで、役者として名前がある程度売れた時に、実家に女房の母を連れて帰ったら、うちの親父が、“この子が生まれた時に有名な役者になる夢を見ましてね”なんて言うんです。ウソつけ。聞いたこと一度もありませんでしたよ(笑)。

 でも、“こんなの無理だろう”って思われているものが、当たった時こそ、痛快なんですよね。だから、今回監督をさせてもらった映画『幸福のアリバイ』も、マイナス要素だらけ。今の映画界は原作つきが主流ですけど、今作はオリジナル作品ですし、当たらないと言われるオムニバス形式ですからね。

 何より、中井貴一さんやギバちゃん(柳葉敏郎)が出ているのに、主役的扱いが、山崎樹範ですからね(笑)。もちろん、彼の役者としての実力は申し分ないですけどね。彼が主演の映画なんて“当たるわけがないだろう”って思うでしょう(笑)?

 だからこそ、当てる意味があると思うんですよね。周囲からは、“当たんねーよ”って陰口叩かれるかもしれませんが、まさに“恥をかいて意地を掴む”ですよ。この言葉を肝に銘じて、これから役者としても、映画監督としてもやっていきたいなと思っています。

撮影/弦巻 勝

陣内孝則 じんない・たかのり
1958年8月12日、福岡県生まれ。80年にバンド『ザ・ロッカーズ』のボーカルとしてデビュー。その後役者に転身し、86年のドラマ『ライスカレー』で注目され、87年、映画『ちょうちん』でブルーリボン賞・主演男優賞など数々の賞を受賞する。03年には『ロッカーズ』で長編映画監督としてデビュー。07年には『スマイル~聖夜の奇跡~』が公開された。陣内氏が9年ぶりに監督を務めた映画『幸福のアリバイ~Picture~』は11月18日(金)より全国ロードショー。

本日の新着記事を読む