菅義偉官房長官が発した「小池百合子都知事の政治的抹殺」指令

 “政権の要”と“首都のトップ”。相克の向こうに透けて見える利害の対立。策士の名も高い実力者、渾身の勝負手とは?

「小池さんね、クリスマスまでにまだ何をおやりになるんですか?」 東京五輪組織委員会の森喜朗会長(元首相)は、11月29日の4者協議(国際オリンピック委員会・国・組織委員会・東京都)の席上、小池百合子東京都知事をこうチクリと皮肉り、「協議後、ニンマリしていました」(全国紙都庁担当記者)。

 費用が当初より削減されたとはいえ、森氏が目論んでいた通り、ボート・カヌー会場と水泳会場が新設されることになったからだ。「押し込まれた小池知事にしたら、“最後の抵抗”という意味もあったのでしょう。バレーボール会場を、森会長が求める新設の有明アリーナではなく、なんとか既存の横浜アリーナでやれないかと、“クリスマスまでに最終の結論を出したい”と決定延期を申し出たのです」(前同)

 その小池知事に森会長が嫌味をカマしたわけだが、これまで順風満帆だった知事に、この五輪会場問題で逆風が吹き始めたのは事実。「一時、小池知事がボート・カヌーの代替施設にあげた長沼ボート場(宮城県登米市)周辺では“小池劇場に翻弄された”という怒りの声が沸騰しています。地元ではわざわざ、小池知事の視察に向け、選手村用モデルハウスまで作っていただけに、“単なるパフォーマンスだったのか”という批判が沸き起こるのも、うなずけます」(地元紙記者)

 この綻びが見え始めた小池劇場に、ほくそ笑んでいるのは森会長だけではないという。誰あろう、菅義偉官房長官その人だ。風向きの変化を敏感に嗅ぎ取り、この策士がいよいよ動き出したという。「森会長は、菅氏に悪い印象を持っていません。むしろ、安倍晋三首相をよく支えてくれているという印象を持っているはずです」(政治評論家の浅川博忠氏)

 そもそも森会長と菅官房長官の2人は、都知事選に小池氏が立候補した際、猛反発していた同志だ。「菅氏は都知事選挙へ相当力を入れていました。まず、候補者の選定にしてからがそう。最初に出馬が取り沙汰された“桜井パパ(元総務事務次官の桜井俊氏=人気グループ『嵐』櫻井翔の父)”は総務大臣時代の直接の部下です。実際に出馬した増田寛也氏(元総務相)にしても、やはり総務大臣時代の人脈から絞り込みました」(菅氏に近い関係筋)

 つまり、都知事選は“菅人脈”VS小池氏という構図だったわけだ。「菅氏は、街頭演説に立つ機会こそ少なかったものの、選挙中、夕方以降は業界団体の締めつけに奔走していました」(前同)

 菅氏は、増田氏の個人演説会で「劇場型の人に大事な都政を託すことはできない」と小池氏を激しく批判。しかし、結果は惨敗。それだけに、以降、「あの女だけは許せない!」というドス黒い怒りが渦巻いているという。その菅氏は、第二次安倍政権誕生以来、史上最長の在任期間を誇る官房長官。“菅詣で”は絶えることなく、“最強の官房長官”“ミスター自民党”とまでいわれる。

「菅氏は若い頃、板橋区の段ボール工場で働き、叩き上げで政治家になった苦労人。徹底した原理主義者でもあります。安倍政権で首相や閣僚が問題発言しても、原理原則を掲げて、それを収めてしまう能力に長けています。一方の小池氏は“女性初の都知事”と持て囃されますが、菅氏にしたら、そういうことは関係ない。すべて、国にとってプラスになるかどうかなんです」(政治評論家の有馬晴海氏)

 パフォーマンスに長けた小池氏とは、そもそもウマが合わないのみならず、「2012年の自民党総裁選で安倍氏を擁した菅氏を裏切り、小池氏が石破茂元防衛相を推して以来、“小池憎し”の思いが強い」(元自民党幹部)という。

 それでなくても、“国政の要”である菅氏にとって、“首都のトップ”というのは厄介な存在だ。「かつて石原慎太郎都知事時代、当時の小泉(純一郎)政権も、石原氏が政権の政策に辛らつな発言をすると、それだけで世論がなびき、政権の支持率に影響したほどでした」(前出の菅氏に近い関係筋)

 小池氏が定例会見で安倍政権の政策にコメントする機会が増えてくると、安倍政権の支持率に影響が出る恐れもある。「ボスの安倍首相は今のところ、高い支持率を持つ小池氏と協調路線を取っています。しかし、菅氏にとっては、より現実的に、小池氏を潰しておかなくてはいけない決定的な理由があるんです」(前同)

 それが、11月30日に法案が審議入りしたカジノ問題だという。別の菅氏周辺から、こんな声が洩れてくる。「カジノ構想はアベノミクスの中心になりえる政策。もともと石原都政時代から、お台場にカジノを作る構想がありました。ところが、舛添要一前都知事が任期途中にカジノ反対を訴え、その予定地(都有地)を民間企業にリース。構想は一気に萎んでしまうんです」 そこで代替地として浮上してきたのが、菅氏の地元・神奈川県だという。

「横浜の山下埠頭地区に京浜急行も参入して、カジノを中心とするIR(総合型リゾート)を建設する構想があります。カジノ法案が成立したら、大阪(夢洲)と横浜で日本初のカジノが誕生する運びとなっていました」(IR議連関係者)

 この構想を実現するには、まず、横浜のライバルである東京のトップに、意思疎通できる人材を配置しておく必要がある。「だからこそ、“最強官房長官”と呼ばれる人が都知事選で裏方に徹し、周囲の人たちが驚くほど汗を流したのです。まさに、執念のひと言に尽きます。で、その背景にはカジノ構想があると、もっぱらでした」(前出の菅氏に近い関係筋)

 ところが、小池知事誕生後、“第三の候補地”が急浮上する。それが豊洲だった。築地中央卸売市場の移転予定地だが、新市場の施設内に盛り土がなされていない問題が発覚し、移転は早くて1年後になった。「小池知事は、そもそもカジノ推進派。側近からは、豊洲への移転そのものを取り止め、豊洲新市場跡地をカジノにしたらどうかという案も出されているようです」(都庁関係者)

 一発逆転で“豊洲カジノ”が誕生すれば、「首都圏に2か所もカジノは必要ない」(カジノ反対派議員)という理由から、実現寸前だった横浜カジノ構想が吹っ飛びかねない。「小池氏が高い支持率をキープするためには、新たな政策を矢継ぎ早に発表する必要があります。豊洲新市場への移転が先延ばしになった事実そのものが、次のカードとなります。つまり、移転が停滞しているように見えることこそ、“豊洲カジノ案はまだ生きている”という菅氏への“宣戦布告”になるわけです」(前同)

 もはや、菅氏にとっては一刻の猶予も許されないだろう。そこで、権謀術数渦巻く永田町から聞こえてくるのが、菅氏による小池氏の「抹殺指令」だという。「東京五輪の会場問題で森会長に押し込まれ、長沼ボート場問題で逆風が吹き始めた今、菅氏が荒れ狂う“牝馬”の手綱を握り、まずは意のままに動くよう飼いならそうとする。それがポシャれば、政治的に“抹殺”する腹だというんです」(官邸筋)

 カジノ法案が審議入りし、ここにきて国会の会期が延長されたのも、菅氏の「指令」と無関係ではないという。

「一時騒がれた“年明け総選挙説”は、トランプ氏のアメリカ大統領選勝利後、萎んだ印象があります。しかし、会期を延長するということはすなわち、抜き打ち解散の可能性が再び浮上した事実を裏づけています。年明け総選挙の狙いの一つに、小池氏の“新党立ち上げ→国政進出”という動きを封じ込める意図があるのは間違いありません」(全国紙官邸担当記者)

 それでも小池知事は「グリーンTokyo」という名の地域政党を旗揚げし、来年夏の都議選に大量の候補者を擁立するという噂がある。しかし――。「新党となると、資金や選挙の人材確保など、決して容易な道ではありません。また、新党への有権者の意識も不安定。小池人気にはあやかりたいが、不安もあるという議員が多いのではないかと思います」(前出の浅川氏)

 政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏も、こう続ける。「小池氏が、都議選前に地域新党を発足させ、自身の純粋な与党を作ろうとするのは確かです。ただ、小池氏が最終的に目指す介護特区や環境都市構想には、国の協力が不可欠なんです」

 つまり、菅氏が最終的には、暴れ馬の小池知事をうまく御すことになる? 「とはいうものの、小池知事にも女の意地があります。小池氏が4者協議(前出)後、都庁近くのホテルで行われた民進党都連のパーティに出席し、蓮舫代表とエールを交換したのも、自民党、すなわち菅氏を牽制する狙いからですよ」(都議会自民党関係者)

 一寸先は闇の政治の世界。菅氏の「抹殺指令」は完遂されるのだろうか……。

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