2月26日、阪神競馬場で弟・幸四郎が20年の騎手生活に別れを告げました。レース後も引退セレモニーでも、涙は一切なし。笑顔、笑顔、笑顔の引退式は、いかにも幸四郎らしいものだったと思います。

 1997年3月1日、初騎乗。乗せていただいた馬は、亡くなった父・邦彦も、僕もお世話になっている松本好雄オーナーのメイショウユリヒメ。そして最後も松本オーナーの愛馬、メイショウオオカゼ。縁という言葉をはるかに超えた、人と人の確かな結びつきには、兄として、先輩騎手として、感謝の言葉しかありません。

「幸四郎ーッ!お疲れさま!」 最終レースが終わっても引退式のために残ってくださった、たくさんのファンの温かい声に包まれながら鞭を置いた幸四郎は、本当に幸せだと思います。もしも亡くなった親父がこのシーンを見ていたら……「幸四郎にしては出来すぎやろう」と顔をくしゃくしゃにしていたかもしれませんね。

 初勝利がデビュー2日目の重賞、マイラーズカップというド派手なデビューを飾り、JRA通算9121戦693勝。馬に人に、数多く教えられながら、勝負の世界で20年生きてきた幸四郎は、この日から調教師という新しい道を歩むことになりました。

 調教師時代、親父が苦労する姿を見た僕は、「オレには無理やな」と思いましたが、幸四郎はその逆のことを感じていたようです。とはいえ、騎手と調教師は似て非なるものです。これから、思いもしなかった苦労をすることになるでしょう。でも、幸四郎なら、その壁を一つ一つ乗り越えていってくれると思います。そして、いつか……そう遠くない、いつか……兄弟で喜びを分かち合える日が来ることを願っています。

 えっ!? 僕の引退ですか? 同じ日、50歳のバースデーをフィールドで飾ったサッカーの三浦知良選手が、次は60歳を目指してと話していたように、僕も50歳、60歳を現役で迎えたいと思っているので、引退はないですね。

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