金正恩氏は、13年12月に北朝鮮で“ナンバー2”と目されていた張成沢(チャンソンテク)氏を処刑している。重村氏は、この処刑が「中国が北朝鮮への不信感を一気に強めた契機だった」と指摘する。張氏は正男、正恩両氏の父である金正日総書記の妹と結婚しているため、2人にとっては叔父にあたる。また、張氏は金正日体制下では側近として仕えていたため、国際社会からは、最高指導者を世襲した正恩氏の“後見人”だと考えられていた。しかし、そうはならなかった。

「張氏は長らく中国とのパイプ役も務めていました。北朝鮮が海外で行う様々な貿易や合法、非合法を含む各種ビジネスも一手に仕切っていたともいわれます。さらには、中国で“裸官”と呼ばれる汚職幹部のマネーロンダリングにも関与していたという噂もありました。張氏が粛清されたのは、こうした情報が正恩氏の耳に入ったからともいわれています」(通信社記者)

 中国の政権中枢で北朝鮮と関係が深いのは、上海閥と呼ばれる政治勢力とされている。上海閥のトップは江沢民元国家主席。15年10月に朝鮮労働党創設70周年の記念行事に出席したのも、上海閥出身で序列5位の劉雲山(リュウユンシャン)氏だった。

「ただ、中国国内での上海閥の地位低下は凄まじいものがあります。習近平国家主席は太子党と呼ばれる派閥のリーダーですが、彼はこれまで上海閥が牛耳ってきた中国国内の利権をすべて取り上げつつあります。上海閥の凋落は、中国国内で北朝鮮の庇護者が減ることを意味していますから、正恩氏としても気が気ではないでしょう」(前同)

 そのため、金正恩氏と習主席の関係は良好ではないとされており、それが証拠に、正恩氏は一度も“北京詣で”をしたことがない。さらには、中国人民解放軍でも“北朝鮮シンパ”は激減しているという。

「これまでは、人民解放軍の瀋陽軍区が北朝鮮軍を支えてきたといわれています。朝鮮半島有事の際、真っ先に投入されるのは瀋陽軍区の兵士でした。そのため、同軍区には予算も過剰に配分されていたようです。ところが、習主席は昨年の2月に軍区制を改編し、7つあった軍区を5つの戦区に変更してしまったんです。これで北朝鮮軍と人民解放軍の“陰の連携”は途絶えてしまった可能性があります」(前出の黒鉦氏)

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