その方は、“飯なかったら、うち来いよ”なんて声もかけてくれて、僕もお金がなかったもんですから、お邪魔させてもらっていました。お母さんと2人暮らしをされていたんですが、“お前がくると母親も喜ぶから、来い来い”なんて言われて、僕も馬鹿正直に毎日、通っていました。

 そのサークルの生徒さんも、カーテンがないって言ったら、カーテンを持ってきてくれたり、“うちの倅が使っていた服があるから”と服をくれた。親もいない、故郷もない、そんな不安な中で助けてくれた。

 人の温もりと、自分の情けなさが入り混じって、涙がとめどなく流れてきて、止まりませんでした。そんなときに、小さい頃から聞いていた演歌の一節が、ふと思い浮かぶんです。千昌夫さんの『夕焼け雲』とか。帰りたくても帰れない故郷への思いを歌ったものなんですが、本当にその通りだなと。そうすると、演歌がまた好きになるんですよ。演歌って本当に自分の人生なんですよ。やっぱり離れられない。

 たとえば、一人で酒を飲んで、憂さを晴らしてまた明日からがんばろうなんて思っていると、そういう情景を歌った演歌が絶対にあるんです。演歌が、その時々の場面に応じた僕の心情を代弁してくれるんですよ。

 今回の『男の流儀』もそう。世の中には、自分の思い通りにいかないことがたくさんあると思うんですよ。それをボヤいていてはダメで、その不満をグイっと飲みこんで、前に進む。その男の美学を歌っている。

 ままならないことがあったとき、この曲で、少しでも気が晴れたら、こんなに嬉しいことはありません。

撮影/弦巻 勝

三山ひろし みやま・ひろし
1980年9月17日、高知県生まれ。高校卒業後にガソリンスタンドに就職。祖母の勧めで本格的に演歌のレッスンを始め、NHK『のど自慢』で地区優勝し、全国大会に出場。05年に、演歌歌手を目指し上京。松前ひろ子がプロデュースする『LIVEレストラン青山』で下積みし、09年に『人恋酒場』でデビュー。ビタミンボイスと評される声で多くのファンを魅了。けん玉を披露しながら歌う独自のスタイルが話題を呼び、15年、16年と2年連続で『紅白歌合戦』出場を果たす。最新作『男の流儀』が、発売中!

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