一方、かつての球児たちが今度は育てる側として甲子園に戻ってくる、というのも高校野球ファンにはうれしい光景。その好例として注目を集めていたのが、激戦区・埼玉の強豪校として知られる花咲徳栄・福本真史コーチの存在だ。福本コーチといえば、03年の準々決勝。史上唯一となる引き分け再試合からの延長戦決着となった花咲徳栄と東洋大姫路の一戦で、異色のベトナム出身投手として注目を集めた姫路のグエン・トラン・フォク・アンを相手に200球近くを投げ抜いた徳栄のエース。9回からマウンドに上がった彼のサヨナラ暴投で試合が決まるという、あまりに唐突な幕切れは、今でも語り草ともなっている。

「実は、去年のドラフトで広島に2位で指名された高橋(昂也)君がまだ2年生の頃に、スポーツ紙の企画で彼をベストナインに選んだことがあったんです。それで、その後に、たまたま福本さんと甲子園で会ったら、“他にもたくさんすごい高橋がいる中で、ウチの高橋を選んでくれてありがとうございます”って、すごい喜んでくれてね。再試合となった試合でも、両チームともアン、福本を登板回避して、どちらも高橋姓の控えピッチャーだったんです。だから、僕の中では“高橋”って聞くと、福本さんのあの試合が浮かぶんです」

 ところで、夏にはないセンバツならではの試みとしては、旬なヒット曲を起用した毎年の入場行進曲と、文武両道を実践する有力校に出場権を与える21世紀枠が有名だ。かみじょう氏はこぼれ話として、こんな話も。

「入場曲に関しては、たまに“選手も行進しづらそうやな”と思う曲もあったりしますけど、01年に宇多田ヒカルの『First Love』が選ばれた際は、さすがに“ええんかな!?”とは思いましたよね。“最後のキスはタバコの~”とか、高校生にはアカンやろって(笑)」

 他方、01年から始まった21世紀枠は、10年の向陽が出場して以降、海南(14年)、桐蔭(15年)と、和歌山の古豪が相次いで出場しているあたりが特筆に値する。「21世紀枠は、例年、最終候補に残った9校から3校を選ぶんですけど、このときに大きくモノを言うのが、各地域を担当する高野連理事のプレゼン力。和歌山からの出場が近年、特に多いのは、和歌山だけが特別扱いをされているのではなく、箕島で監督も務めた松下博紀理事のプレゼンが抜群にうまいからというのが真相のようです」

 今大会でも、部員10人で県大会準優勝を果たした岩手の不来方や、岐阜の多治見。山沖之彦(元阪急ほか)を擁して準優勝をして以来、48年ぶりの出場となる高知の中村など、同枠には楽しみな顔ぶれが並んだ。

 春の風物詩といえば、やはり高校野球。「春はセンバツから」である。

本日の新着記事を読む

  1. 1
  2. 2
  3. 3