それが如実に表れたのが、昨年8月28日に起きたマイコラス激怒事件だ。小林の拙劣なキャッチングに業を煮やしたマイコラスが、ジェスチャーつきで小林を罵り、バットをへし折った後、ベンチで大暴れしたのだ。

 また、シーズン終了後、高橋由伸監督が「小林をレギュラーだとは言ってないからね」と報道陣に釘を刺した事実からも分かるように、小林は巨人の首脳陣からの信頼も薄かった。「昨シーズン、プロ野球関係者の間では、“巨人最大の弱点は捕手”というのが、共通認識でしたからね」(同)

 強肩を買われて侍JAPANに召集はされたが、“第3の捕手”との見方が衆目の一致するところだった。中には、「甘いマスクを買われた客寄せパンダ」なんて、厳しい声もあった。しかし、いざWBCが始まってみると、そうした前評判は見事に覆される。それは、まさに“覚醒”と呼ぶべき活躍だった。

「侍JAPANの練習開始とともに、積極的に動いて、首脳陣の評価をアップさせ、いつの間にか正捕手の座をつかんでいたんです。壮行試合で不調だった大野(奨太)をあっさり諦め、小林に切り替えたのは、小久保裕紀監督の英断でした」(同)

 1次ラウンド、2次ラウンド、準決勝の7試合で、20打数9安打の打率.450。7試合中5試合で打点を叩き出し、本塁打1本を含む3試合連続適時打を放つなど、打棒でもMVP級の大活躍だった。

 巨人軍OBの野球評論家・黒江透修氏は「これは、うれしい誤算だよ」と喜びつつ、小林の変身の要因を次のように分析する。「やはり、グアムで阿部がつきっきりで教えたことが大きかったと思う」

 グアムとは、今年1月の自主トレで、阿部が小林につきっきりとなり、マンツーマンで「熱血指導」を行ったことだ。「阿部が小林に教えたのは、主にバッティング。これまでの小林は、打ち頃の球でも簡単に見送ってしまう傾向があったんだけど、そのあたりを徹底的にアドバイスしたと聞いている。バッティングに積極性が出てきたね」(前出の黒江氏)

 決して当たりの良くない打球が、なぜか、いいところに飛んでヒットになるラッキーボーイぶりもWBCでは見られたが、それも、この積極性の賜物だろう。だが、良かったのは打撃だけではない。それ以上に、守備面での成長が著しく見て取れたのだ。

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