ほかにも、思考のプロセスがおもしろかったりしますね。対局中に、何を指せばいいのか分からない局面が出てくる。そこで、考えて考えて、でも分からない。いくら考えても分からないんじゃないかと思うときもあるんですが、あるとき、1つ1つの考えが点だとすれば、それが線になる瞬間が、あるんですよ。点でみると、ダメだけど、それを組み合わせて考えてみると、フッとつながる。その瞬間が気持ちいいですね。

 でも、いくら平常心を保とうと思っても、やっぱり波がありますからね。多少のスランプなら、自分のスタイルを信じて、じっと耐えて待てばいいんですが、これはスタイル自体を変えなければいけないっていうときもあるんです。

 最近だと、去年6連敗していた時期があったんです。そのときは、自分のスタイルがある程度煮詰まってきていて、新しく考える局面が少なくなってしまっていたんです。そうなると、盤面を見ても新しい手を考えるというモチベーションがなくなってしまっていた。

 これは、ドラスティックに変えないといけないなと思って、先手では角換わりという戦法を使っていたんですが、矢倉にしたんです。いままでの研究が白紙になったんですが、それ以上に、内から沸いてくるモチベーションのほうが大事だなと思ったんです。やっぱり、興味を持って局面を考えられるということ、考え甲斐あることって大きいんですよね。

 将棋は、スポーツと違って何十年と長いスパンで戦っていかなければならないので、一時的に負荷をかけて、自分が好きじゃないものをやっていくよりも、もともと自分の中にある将棋に対する好きという気持ちを大事にしてこれからもやっていきたいなと思っています。

撮影/弦巻 勝

佐藤天彦 さとう・あまひこ
1988年1月16日、福岡県生まれ。中田功七段門下。98年9月に関西奨励会に入会し、06年に四段に昇段し、プロデビュー。08年、11年に新人王戦で優勝。15年にA級に昇格。16年5月には、羽生善治を破り、名人位を獲得。28歳は、史上4番目の若さで、16年ぶりとなる20代での名人位獲得となった。4月6日からは、挑戦者・稲葉陽八段との名人戦七番勝負が始まる。

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