その後、3月に行われたWBCでの小林の活躍は、ご存じの通り。全試合で先発マスクをかぶり、日本代表選手の中で、最も高い打率を残すという劇的な成長を見せた。野村克也監督の下で打撃コーチを務め、優勝請負人として知られる伊勢孝夫氏は、3月31日開幕戦の小林のリードを、こうたたえる。

「配球には2種類あって、投手の良いところを引き出すか、相手の弱点を突いていくか。どっちかな、と見ていたら、良いところを引き出していたよな。一番いいボールを投げさせてた。マイコラスだと外のストレートやな。捕手は普通、一番いいボールっちゅうのは、ジョーカーとして使いたがるんだけど、小林はバンバン放らせてた」

 小林の躍進は、一塁専念を決めた阿部の覚悟のたまものと言っていいだろう。「慎之助もキャンプでは、よう振ってた。まだ打つんか? って聞いたら“ろうそくも最後は派手に火が燃えるでしょ。今年は、そのつもりでやりますよ”って言ってたよ」(前同)

 その言葉通り、開幕カードの中日3連戦で阿部は、打率.545、本塁打2本、打点8とド派手に大爆発してみせた。「開幕戦初打席で、中日のエース・大野雄大から放った第1号は、タイミングを外されながらも、体がしっかりと残っていたから打てた、阿部ならではの打球でした」(専門誌記者)

 敵将・森繁和監督は「投手は責められん」と言葉を絞り出し、テレビ解説を務めた原辰徳前巨人監督も、「自然体で、いい構えをしている。ツイスト打法で打ってるんです。非常に高等な技術」と、興奮を隠せなかった。ツイスト打法とは、打つ瞬間に腰を通常とは逆方向にひねり、体の開きを抑える打ち方だが、難易度が高く、使いこなせる選手はほとんどいないという。

 そして、阿部の今季第2号は4月1日の第2戦、劇的な場面で生まれた。中日の継投に抑え込まれ、1-2とリードされた巨人。9回表に守護神・田島慎二が登板し、ゲームセットと思われたが……。「1死から中井大介に代えて代打に漢・村田修一。ファンの思いを背負った村田がライト前ヒットを放つと、ドームは異様な雰囲気に包まれました」(ベテラン記者)

 続く立岡は一ゴロ。3番・坂本勇人が四球を選び、2死一、二塁の場面で阿部に打順が回ってきたのだ。

  1. 1
  2. 2
  3. 3