カウント1-1からの3球目。低目の、見送ればボールになるフォークだった。阿部のバットが一閃すると、打球はレフトスタンドに飛び込む逆転サヨナラ3ラン。東京ドームは熱狂のるつぼと化した。「敗色濃厚な中、守護神から打ったサヨナラ弾の価値は計り知れない。あれこそ4番の仕事です。出迎えた高橋監督の笑顔でも分かりますね」(前同)

 阿部は翌4月2日の日本テレビ系『Going! Sports&News』の直撃取材で「打席に入る前に心がけていることは?」と問われ、「状況を把握していくことだけですね。できていたからこそ、ああいう(逆転サヨナラ3ラン)結果になった」と、サラリと答えている。己を過信することなく、淡々と答える姿には、まさに王者の風格があった。

 中日との第3戦でも、他球団のスカウトをうならせる一打が飛び出した。6回裏、先頭の3番・坂本が内野安打で出ると、続く阿部は吉見一起の初球、131キロの変化球にバットを合わせ、一塁線を破る二塁打。チャンスを広げ、続くマギーのタイムリーを呼び込んだのだ。「あの場面で最も必要なのは一塁走者を三塁に進めること。まさに状況を把握し、阿部はいとも簡単に、狙った通りの打球を打ったわけです。“ここまで思い通りにできるのか”“やっぱりすげえな”と、周囲で感嘆の声が漏れていました」(民放局記者)

 打棒だけでなく、リーダーとしての存在感も突出している阿部だが、07年から14年まで務めた主将は15年から坂本が受け継いだ。「坂本は昨季、自身初の首位打者を獲得し、黄金期を迎えつつある。主将としても“遠慮なく言うべきことは言う”と、自覚は十分。阿部も安心して任せています」(前同)

 主将は坂本、捕手は小林という後継者を得て、阿部のバットに磨きがかかった結果、巨人は抜群のスタートを切ることになった。「阿部のおかげで5番・マギーは楽に打てる。マギーが打てば、ポジションを争う村田の眼の色も変わり、競争が生まれます。だいたい、村田や亀井善行が代打なんて贅沢すぎます(笑)」(前出の専門誌記者)

 20歳の岡本和真を開幕スタメンで起用し、不調ならすぐに代えるなど、高橋監督の采配にも思い切りと幅が生まれている。「ギャレット、クルーズも控え、ケガの陽岱鋼が戻れば、豊富すぎるコマがそろう。先発陣も菅野智之、マイコラス、内海哲也、吉川光夫、大竹寛、田口麗斗に、ケガで調整中の山口俊。救援陣も森福允彦、マシソン、カミネロの新・方程式で、盤石です」(前同)

 “4番ファースト阿部”で、歯車が噛み合った巨人。秋に優勝の美酒に酔いしれる中心には、慎之助の輝く笑顔があるはずだ。

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