「実は、前の会社は周りに何もないような地方だったんです。僕としては東京に住みたくて、東京にある製薬会社に転職を決めました。おそらく、前の会社での実績を認められたんでしょうね。仕事内容は変わらないのに、年収は1000万円まで上がりました」

 順風満帆にいっているかのように思えた矢先、とんでもない事態が会社を襲う。「土曜日、のんびりと携帯でネットを見ていたら、なんと、うちの会社が買収されたというニュースが報じられていたんです」

 買収された会社に残るか、早期退職をするかを迫られた吉野さん。そして、さらに驚く事態が発生した。「携帯にヘッドハンティングの電話がかかってきて、びっくり。身近にヘッドハンティングされた人なんていないから、相談する人もいないし……。なぜ、僕にヘッドハンティングが来たのか疑問だったんですが、薬は直接MRが医者に売るのではなく、間に卸業者を挟んでいて、卸業者はMRの仕事ぶりを知っています。おそらく、ヘッドハンティングの会社は卸業者から僕の情報を得たのではないかとにらんでいます」

 優秀な人しか選ばれないヘッドハンティング。ふたつ返事で引き受けたのかと思いきや、3~4か月も悩んだという。「薬は特許があるので、それが切れると次はどんな薬が出るのか、常に調べておかねばなりません。タイミングによっては、薬の知識が少ないまま転職してしまう恐れがあるので、次も製薬業界に転職するかは悩みました。そして、悩みに悩んだ末、ヘッドハンティングを受けることにしました」

 このとき、吉野さんは36歳。現在はヘッドハンティングされた会社で勤務を続けている。なぜ、ここまで年収を上げることができたのか、吉野さんは自身を、こう分析する。

「僕のモットーは“楽しく仕事をすること”。でも、そのためには義務を果たすこと、営業ならば数字にこだわることが必須です。プレッシャーだけど、そこが楽しいんですよね。また、一癖も二癖もある医者に積極的に近づいていったように、人を毛嫌いせずに話してみることも大事。プライベートでも、息子の野球クラブの父兄の皆さんと会うと、自分の知らないことを知れて楽しいんですよ。建設現場で働いているお父サンなんか、重機を操作して、グラウンドをキレイにならしてくれて、すごいって思いますもん」

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