ちなみに、楽天では、13年日本シリーズで星野仙一監督が見せた第5戦での則本の中継ぎ抜擢から、第7戦での田中将大(現・ヤンキース)のクローザー起用に至るまでの流れは、いまだに語り草。対戦した巨人ベンチを圧倒するほどの一体感で球場全体を覆った、あの異様なムードは、采配ひとつが観客の心をも大きく動かした瞬間でもあった。

「WBCで盛り上がったから言うわけではないですが、06年の第1回WBCでジャパンを率いた王貞治も、やっぱり名将です。中でも、準決勝・韓国戦での代打・福留孝介のホームランは出色。不振でスタメンを外されていた彼を、あんな場面であえて使うなんて、なかなかできることじゃない。あの一発がなければ、世界一にはなれなかったでしょう」(スポーツ紙中堅記者)

 そうしたベテラン勢の活躍は、WBCの歴史でもある。第2回WBCではイチローの決勝タイムリー。第4回大会でも、青木宣親(アストロズ)や内川聖一(ソフトバンク)といった、ベテランの一打が、何度も日本打線を勢いづかせていた。小久保監督が“名将”かどうかはさておき、代打の出しどころ、ベテランの存在感が、戦局すらも大きく変えるのだ。

 反対に、若手の起用法に定評があるのは日本ハムの栗山英樹監督。「昨季の大逆転優勝で、さらに評価を高めましたが、やはり采配はうまいなと感じます。栗山さんとハムの選手たちには、どこか“あうんの呼吸”があるんです。ビジターの首位攻防戦で、いきなり1番に大谷翔平を起用するだけでも考えられないのに、その大谷自身が起用に応えて先頭打者ホームランを叩き込むなんて、漫画のような出来事が起きてしまうわけですよ」(日本ハム担当記者)

 栗山監督の采配に応じた選手の神がかり的活躍がなければ、最大11.5ゲーム差をひっくり返すことはできなかっただろう。「逆転されてしまったソフトバンクの工藤公康監督も日本一にはなっていますけど、彼の意外性ある思いつきに、選手が置いてきぼりを食らっている場面がしばしばある。去年は、そのあたりの差が順位になって現れたんじゃないかな、と思ったりもします」(前同)

 ちなみに、件の栗山監督は、広島との日本シリーズ第6戦では、2死満塁での中田翔の打席で、大谷をネクストに立たせることで“威圧”し、相手バッテリーから押し出し四球を誘うなど、心理戦でも試合巧者ぶりを発揮している。「ハンカチ王子」斎藤佑樹への偏愛など、理解し難い言動もあるが、そこは栗山監督の人情なのかもしれない。間違いなく今世紀を代表する名将の一人だ。

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