ところで、そういった選手と監督が見せる相互の信頼関係という部分では、昨年行われた、三浦大輔の引退試合におけるDeNAのアレックス・ラミレス監督の粋な計らいも記憶に新しいところだ。6回1/3、10失点という投球内容は、さらし投げといわれてもおかしくない。それでも、温かな涙と拍手に包まれたのは、何よりも、そこに偉大な選手へのリスペクトがあったから。これもまた、純粋な勝負とは違うベクトルの名采配と言っていい。

 昨季のプロ野球最大の話題といえば、25年ぶりにセ・リーグVを果たした広島カープだろう。緒方孝市監督の采配の特徴は、菊池涼介、田中広輔、鈴木誠也などの若手を重用すること。だが、その裏では、こんなやりくりをしていた。

「打率.300、19本塁打と立派な成績を残した新井貴浩ですが、もう年齢のせいもあって速球に弱くなっているんです。そこで、緒方監督は相手がエース級投手のときは、新井を控えにして打撃が崩れないように配慮していたんです」(広島担当記者)

 冷静にシーズンを見据え、優勝をものにしたが、“絶対に負けられない試合”では執念も見せた。「交流戦でソフトバンクと対戦した6月5日のことです。1回にソフトバンクが1点先制し、6回に広島が追いつくと、こう着状態に。広島は9回から抑えの中﨑翔太にスイッチします。その後、延長戦に突入すると、緒方監督は中﨑を続投させる。11回からはセットアッパーのジェイ・ジャクソンに交代し、こちらも2回投げさせる“男気継投”に野手が応え、その裏にサヨナラ勝ち。普通は6月に、こんな勝負の采配はしません。それでも、ソフトバンクに前日まで1敗1分けだったので、どうしても勝ちたかったんでしょうね」(前同)

 時に冷静に、時に大胆に――。今季は、どんな神采配が見られるか注目だ。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5