ただその分、責任は重大ですし、大変なことも多いですよ。来てくれる方にとっては、次のコンサートに来られるのが、5年後とかになってしまう人もいるわけです。もしかしたら、一生に一度かもしれない。だから、自分がどんなに体調が悪くても、絶対にステージには立たなくてはいけないわけです。

 それに、こういう世界ですから、浮き沈みは当然あります。僕の場合は、ありがたいことに、いろんな方に背中を押してもらい、最高のスタートを切れましたから、過去の自分を追い越せない辛さみたいなものを感じる時期もありました。

 デビュー10周年の時には、これから10年、どうやったら続けていけるかってすごい悩みました。お客さまにとっての氷川きよしは、若くて、はしゃいでいる20代の頃のイメージが強かった。でも、僕は30代になっていて、お客さまが求めるものを出すことができなかった。そこに、葛藤を感じたこともありました。

 でも、いい意味での開き直りで、今の自分が、持っているものが出せればいいのかなと、自然体でいいのかなって思うようになったんです。そう思えるようになって、歌を歌って人に喜んでもらうという楽しさを再認識できました。

 そういう時期を経験した分、今回の『男の絶唱』を聞いたときは、ビビビッときましたね。生きていれば、心が荒むこともあるけど、それでも純な心は忘れずに生きていこうというような歌詞があるんです。

 浮いて沈んで、その過程で成長があるから、またがんばろうと思える。ああじゃない、こうじゃないと悩みながら、昨日の自分より少し成長していれば、それでいい。

 30代最後に、今の自分だからこそ、歌える曲に巡り合えて本当に幸せだなと思います。

撮影/弦巻 勝
スタイリスト/伊藤典子(hoop) 衣装協力/金万 ヘアメイク/加藤恭子

氷川きよし ひかわ・きよし
9月6日、福岡県生まれ。00年に『箱根八里の半次郎』で演歌歌手としてデビュー。同曲で、日本レコード大賞最優秀新人賞など、数々の賞を受賞し、同年末に『紅白歌合戦』出場を果たす。以後、17年連続出場。08年には代表曲『きよしのズンドコ節』で大トリの大役を務め、演歌界を代表する歌手に。最新曲は、シングル30枚目となる『男の絶唱』。

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