5月28日、日曜日、東京競馬場。今年もまた、東京優駿、日本ダービーがやって来ます。競馬に携わる人たちすべての憧れであり、なんとしてでも手にしたいと強く願う栄冠――うれしいとか、やったー! とか、そういう次元をはるかに超えた、心が震えるような感動……これだけは手にした者、“ダービージョッキー”と呼ばれた者にしか分からないと思います。

 騎手を志し、競馬学校を卒業し、痛い思いや悔しい思いを繰り返し、多くの人に支えられる中でようやくたどり着いた最高に輝ける場所……実際に、その座に就くまでは“一度は”と思っていましたが、いざ取ってみると、こんなにいいものなら2度でも3度でも……いや、毎年取りたいというのが、正直な気持ちです。

――ダービーを取る馬というのは、いったい、どんな馬なんやろう? 騎手となって12年目。その答えを教えてくれたのは、最後の直線で突き抜けたスペシャルウィークでした。道中ずっと、“焦るな”とか、“慌てなくても大丈夫だから”と、自分自身に言い聞かせて。それでも、最後の最後で鞭を落としちゃったくらいですから、やっぱり、慌てていたんだと思います(笑)。

――ダービーポジションなんて関係ない。それを教えてくれたのは史上初となるダービー連覇をプレゼントしてくれたアドマイヤベガです。かつて競馬界には、最初のコーナーを10番手以内で回らなければダービーには勝てないというジンクスのようなものがありました。30頭近く(1953年は33頭)の馬が出走していた時代ならともかく、18頭立てで、それはないやろう。思ってはいても、いざ、後ろにポジションを取るのには勇気が必要です。

――それでも、彼の切れ味をもってすれば勝てる。自信を持って後ろから4番手まで下げることができたのは、この舞台に合わせて最高の状態に仕上げてくれた橋田満先生をはじめとするスタッフ、関係者のおかげです。先頭から20馬身。50メートルぐらいは離れていたと思いますが、焦りはありませんでしたから。

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