船越英一郎(俳優)「俳優っていうのは、サービス業なんだと思います」人のため演じる人間力の画像
船越英一郎(俳優)「俳優っていうのは、サービス業なんだと思います」人のため演じる人間力の画像

 “役者は男子一生の仕事にあらず”、これが父・船越英二の口癖でした。父は、役者にならないよう育てたかったんでしょう。子どもだった私に、役者だということを、ずっと隠していましたから。

 初めて映画館に連れていってもらったときは、本当にびっくりしました。忘れもしません、『ガメラ対大悪獣ギロン』でした。ワクワクしながら、映画を見ていると、スクリーンに父親が映し出されるわけです。思わず、“あっ”と声を出して、立ち上がってしまいました(笑)。

 父親は、自分がした苦労を、息子に味あわせたくなかったんでしょうね。役者というのは、人様からいただく仕事で、選んでもらわないことには、成立しない。努力がそのまま報われる仕事ではありませんから。

 結局、父親の反対を押し切って、役者になったわけですが、若い頃は、ずいぶんもどかしく感じることがありました。26歳のとき、連続ドラマ小説『ノンちゃんの夢』で顔と名前が、ある程度の方に分かって頂いたと思うんですが、それから、私たちの業界で言うところの“二番手”の仕事ばかりでした。初主演のお仕事をいただいたのが、42歳ですからね。

 でも、30代の前半くらいだったと記憶しているんですが、その頃に、人のために演じるようになったんですよね。自分のために演じるのではなく、いかに、見てくれた方に喜んでもらうか、そう考えるようになってからは、もどかしさはなくなりましたし、それ以来、モチベーションが下がったことがありません。役者としての道を極めていくというのは当然なんでしょうが、そのためだけにやっていたら“2時間ドラマの帝王”なんてありがたい呼び名は、いただけていなかったと思います。

 2時間ドラマでは、走るシーンが多いですから、走っていると、体力的に限界を感じるときがあるんです。舞台のお仕事ではないので、お客さんを目の前に感じることはできないんですが、見えないお客さんを意識すると、エネルギーがわき起こってくるんですよ。俳優っていうのは、サービス業なんだなと思います。

 それでも、役者という仕事には悔しさがついてまわります。撮影が終わったときに、刹那的な達成感はありますが、作品が手元に届いて見返すと、自分の至らなさを実感しますし、“もっとああすれば”と自分自身が満足することはありません。

 でも、それが“次こそは”というモチベーションになりますし、あとは映画に憧憬、ときめきを感じていたときの気持ちを思い出すことですね。初心を忘れない。それが私たちの仕事はたやすいんですよ。

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