「最初の電話の1時間半後くらいかしらね。このときは新宿のデパートの何とか管理センターみたいなことを言ってましたね。で、さっきとは別の男の声で“先ほどクレジットカードの件で電話があったと思いますが”と前置きしてから、“実は坂上様の銀行のキャッシュカードも危険にさらされている可能性があります。すぐに暗証番号を変えないと危険です”みたいなことを言うんですよ。そりゃあ、“先ほどクレジットカードの電話があったと思いますが”と言われれば、こっちも確かにそうだってなっちゃいますよね。

 それで、“ひいては、私どもで暗証番号を変えるお手伝いがしたいと思います。被害が出る前に一刻も早く番号を変えないといけませんから”と畳みかけてくるんです。私も、確かに暗証番号は変えないとまずいと思ったので、そのまま相手の話を聞いていたんですね。で、これは私の大ミスなんだけど、問われるままに、うっかり暗証番号を教えちゃったの。すると“よろしければ、暗証番号を変えるための手続きを、こちらで代行いたします。ですので、今すぐそちらにキャッシュカードを取りに伺います”って言って、電話が切れたんです」

 ずっと、“何かが変だな”と感じていた淳子さんは、そこで一度、冷静に考えてみたのだという。

「よく考えると、私のカードの暗証番号を変えるのに、“向こうがわざわざうちに来る”。それも“今すぐ”に。それで、これは絶対におかしい!となり、すぐに荻窪警察署に電話したんです。もともと私の住む東京・杉並区は振り込め詐欺などを防止するための広報活動に熱心で、70歳以上のお年寄りの家に婦警さんから“気をつけてくださいね”とよく電話がかかってくるんです。私も電話機の前に荻窪署の電話番号を大きく書いた紙を貼ってあるくらいなんですよ。それで電話をすると警察の人が“すぐにそちらに向かいます”と」

 だが、警察が来る前に、電話の男が訪れてきた。

「インターフォン越しに、“キャッシュカードを取りに伺いました”と言うんです。これは絶対ドアを開けちゃダメだと思って、“今、ちょっと手が離せないの”と言うと、男は意外にあっさり帰っていったんです。その直後に荻窪署の私服刑事さんが2人来てくださって。事情を話すと“また男が戻ってくるかもしれないから”ということで、しばらく私の家で張り込みをすることになったんです。2回目の電話があってから、男が現われるまでの時間は10分ちょっと。最初から、私の家の近くで仲間がスタンバイしていたんでしょうか。それを思うと、ちょっと怖いですよね」

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