「必ず酔って喧嘩です。原因はお芝居についての言い争い。お酒は好きだけど、根はマジメなんです」(前同) 渡瀬は、それを笑って見ていたという。

 サラリーマンを経て東映にスカウトされた渡瀬は、遅れてきたスターだ。「徐々に実録路線も下火になり、渡瀬は体を張ったアクションに活路を見出そうとします」(映画誌記者)

 乗っ取られたバスに、たまたま乗っていた男を演じた『狂った野獣』(76年)のエピソードがすごい。「主人公は途中からハンドルを握り、バスを暴走させます。渡瀬はそのシーンをスタントなしで“俺がやる”と申し出て、驚異的な早さで専用の免許を取得して撮影に挑んだんです」(前同)

 そればかりではない。「監督はクライマックスのバスが横転するシーンだけは専門家に任せようとしますが、渡瀬は断固拒否。結局監督が折れたとか」(同)

 劇中、そのバスには川谷拓三と片桐竜次演じる犯人と、野口貴史ら老若男女の人質が乗っている。「普通、こうした危険なシーンの撮影の場合、運転手以外はバスから降りるもの。しかし、兄貴格の渡瀬が運転する以上、ピラニア軍団の3名は横転するバスから降りられなかったんです。渡瀬が強要したわけではなかったといいますが」 

 前出の元女優・橘さんも人質役の一人だった。「あのときは、川谷さん、片桐さん、野口さんと一緒に私もバスに乗っていたんです! 撮影はなんとか無事に終わりましたが、完成された映画では、横転したときのバスの中は一切、映ってませんでした(笑)」

 主演スターだけではない、東映は女優も脇役俳優も、そしてスタッフも豪快だったのだ。

 コンプライアンス云々がうるさい現代、黄金時代の東映作品を見直してみよう。面白くないわけがない。

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