まだまだ研究の途上ながら、期待は大いに持てる。「何しろ、海外の臨床試験では、すべてのがんの死亡リスクが約20%減少したという結果も出ているほど。今も、研究が進められています」(厚労省詰め記者)

 ところで、その“抗がん”のメカニズムとは? 「アスピリンには、そもそも“抗炎症効果”があります。炎症や腫瘍の形成に関わる『コックス2』という酵素の働きを阻害するので、がんの発生を抑えるとの話もあるのです」(牧氏)

 これだけでも夢のような話ではあるが、期待される効果は、実は他にもある。アスピリンには血液を固める血小板の働きを抑制する作用があり、これが、心筋梗塞や脳梗塞を発症した患者の“再発予防”になるのではないかといわれているのだ。さらに、「再発予防だけでなく、そもそも、これらにかかっていない人の予防にもなるのではないかと、臨床試験も実施されました」(前同)

 16年11月、奈良県立医科大学の研究グループは、心筋梗塞などの心血管病を発症していない糖尿病患者約2000人を10年以上、追跡した結果を発表。「服用量は一日100ミリグラム。02年に臨床を開始し、08年、“効果は認められない”と発表。しかし、65歳以上に限れば約20%減少という有意差が見られたことから、さらに8年間“追試”を実施した。結果、有意差は消え、逆に消化管出血のリスクが2倍以上に高まるとのデータが出たのです」(同)

 だが一方で、冒頭に挙げた米国の予防医学専門委員会は「心筋梗塞や脳卒中を発症していない人が、低用量アスピリン(1日81~100ミリグラム)を継続して服用すると、その後の発症リスクが心筋梗塞で17%、脳卒中で14%低下する」との最新結果も発表している。

「試験結果がバラつくということは、研究の余地が残っているということ。“効果なし”と断定するのは、まだ早計でしょう。過剰摂取により胃潰瘍や消化管の出血など副作用もあるため、服用の際は医師に必ず相談するべきですが、大きな可能性を秘めた存在であることは間違いありません」(医療専門誌記者)

 病気のリスクにおびえる中高年の“救い主”になるかもしれないアスピリン。今後の研究の行方を、じっくりと見守りたい。

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