■仮想対決(3)トルネード投法vs野村ID

 日本人メジャーの先駆者・野茂英雄が日本球界で活躍したのは、90~94年のたったの5シーズンに過ぎなかった。この間に残した成績は、78勝46敗、防御率3.15、奪三振1204という数字。変則的なトルネード投法で三振の山を築いて、勝ち星を稼いでいた。

 トルネードがパの打者たちをキリキリ舞いさせていた頃、セ・リーグを席巻していたのが野村克也監督率いるヤクルトスワローズの「ID野球」だ。野村野球の申し子ともいうべき古田敦也捕手のリードで、ヤクルト投手陣が他チームを翻弄。池山隆寛、広澤克実たちが、一球一球の持つ意味を再確認する考える野球に目覚め、チームとして完全に覚醒したのだ。必然的に、古田をはじめとするヤクルト打線が野茂をいかに攻略するかがポイントとなる。

 手束氏によれば、野茂は古田に対して、社会人時代のイメージで投げてくるのではないかと予測する。「野茂が舐めて投げて、それを古田が右中間に打ち返すんじゃないですかね」

 この対戦ではノムさんの心理作戦が炸裂するはずなので、野茂は厳しい戦いをしいられるだろう。「ノムさんなら“あのフォームなら走り放題や”とか言って挑発していくでしょうね。攪乱して細かく点を取っていく。二桁三振するけど、5点くらい取りそうなイメージです」(手束氏)

 IDと足を使った攻撃で野茂危うしか。一方、江本氏はこう分析する。「野茂は、あのフォームなのでコントロールが安定しないところがあり、ある意味ID泣かせです」

 さらに、攻略自体が難しかったと、当時のヤクルトで打撃コーチをしていた伊勢氏は解説する。「あいつはフォーク投げる時、トルネードで捻るときに指を挟むから、クセがなかった。攻略はしんどかったと思う」

 1試合だけの対決なら攻略は難しかっただろうが、シーズンを通して見たら、おそらくヤクルトは癖をつかんでいたのではないか。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5