僕自身も、各地方を周って、バーとかライブハウスみたいな場所に荷物1個背負ってフラッときて、15分くらいの芝居をやるってスタイルでやっていたこともあったんです。まあ、意外と荷物が多くて、リュック一つで颯爽と去っていくみたいな感じではなかったですけど(笑)。

 そういうところに憧れのような気持ちを抱きますし、何より謎に包まれているぶん、物語を作る側としては非常に魅力的なんです。各地に残された点と点をつないで、一つの物語にしていく。とてつもなく時間がかかるんですよ。ライフワークとしてやっていくしかない。だから、絵金を演じると腹を決めるのに、3年くらいかかっちゃいました。

 絵の大事さって今とは違うと思うんですよね。当時は今のように、テレビもなければ、映画もない。そういう時代において、屏風絵を買って、絵を眺めるっていうのが、大きな楽しみだったと思うんです。それだけに、赤岡の人々の絵金に対する愛ってすごく深かったし、今の人たちからもとても愛されている。中途半端な気持ちで、絵金を演じることはできませんでしたね。

 腹を決めてから、赤岡をはじめ高知の方々に報告して、絵金の足跡を辿って高知県の各所をめぐったり、絵金のお墓にも行きました。山の上にあるんですが、彼はお酒が好きだったので、お酒を持っていかないとたどり着けないなんて教えてもらって、それを言い訳にお墓の前で、手を合わせて酒を飲みました。もう毎年の恒例行事になっていますね(笑)。

 役者として、20年くらいやってきましたが、絵金を演じることになってから初めてのことだらけで、芝居を始めた頃のような初々しい気持ちで、チャレンジできているんです。そういう心の琴線が揺り動かされるような作品に出会えたとき、役者をやっていて良かったなと思うんです。だから、絵金を演じることはもちろん、そういう挑戦しがいがある課題に一生、取り組んでいきたいなと思っています。

撮影/弦巻 勝

神山てんがい かみやま・てんがい
1970年、北海道生まれ、東京育ち。大学時代から演劇活動を始め、舞台、映画など様々な作品に出演する一方、脚本家、演出家としても多数の舞台を作り上げる。演劇、音楽、ダンス、パフォーマンスのコラボユニット『煉獄サアカス』を主宰。現在は、一人芝居短編集を各種イベントにて上演。また、幕末の土佐に生きた絵師・絵金の半生を描いた『絵金縦遊伝』をライフワークに掲げる。

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