いまさらですが、「脚質」という言葉をご存じでしょうか。これは、レースでの位置取り……勝つため、最大限その馬の能力を生かすためには、どの位置でレースを進めるのがベストなのかを示すもので、大別すると、逃げ・先行・差し・追い込みの4つに分けられます。

 ただ、すべてのサラブレッドがこの4つの枠にすべて収まるのかというと、それほど単純ではありません。たとえば、逃げ馬です。単騎で大逃げを打たないと、その能力を発揮できない馬に騎乗したときはまず、最高のスタートを決めること。次に、何が何でも逃げること。この2つに最大限の注意を払わなければいけませんが、性格を含めて、そこまで極端な馬は、それほど多くはありません。

 逃げるのがベストだと思うけど、逃げなくても競馬はできる――そんな馬に騎乗した際は、レース前にもあれこれ考えますが、実際は、ゲートを出てからどうするか、その作戦を決めるようにしています。トウケイヘイローをパートナーに、初めて「函館記念」を勝った2013年のレースが、まさにそれでした。4枠8番から、最高のスタートを決めた瞬間に、迷わず、逃げる競馬を選択していました。

 こうなると、次に考えるのは、――このまま、後続の馬に絡まれることなく、逃げ切るためには、どうすればいいのか。ということです。馬場状態。馬の体調。出走馬の顔ぶれ……すべてを考え、導き出したのが、道中、ほぼ同じラップを刻んで走ることでした。

 当時の数字を振り返ると最初の1ハロン(約201.17メートル)が12秒2で、そこから、11秒0、11秒7、11秒8、12秒1、12秒1、12秒0、12秒0、11秒6、12秒1。ほぼ同じ数字がキレイに並び、ハイペースでもない、スローペースでもない、緩みのない平均ペースで駆け抜けたことが分かってもらえると思います。

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