太田和彦(デザイナー・居酒屋研究家)「僕は、居酒屋は男を磨くところだと思っている」居酒屋で鍛えた人間力の画像
太田和彦(デザイナー・居酒屋研究家)「僕は、居酒屋は男を磨くところだと思っている」居酒屋で鍛えた人間力の画像

 居酒屋の主人と客では、主人のほうが偉い。そのバランスは51対49。だから、客はその店のルールに従わなければならない。ルールに文句を言うのは田舎者。江戸の居酒屋は、そういう気風です。

 スタイルを持つのは、大事なことで、それに馴染む人は通えばいいし、嫌なら行かなければいい。神楽坂の『伊勢藤』っていうお店は、文化財級の居酒屋なんだが、うるさくすると、“お静かに”と注意される。

 だから、みんな一人で黙って杯を傾ける。何も考えずに、無の境地になりたい人が行く。古い居酒屋は、そこが好きな人ばかり来ているから、さぞかし賑やかだろうと思いきや、だいたいシーンとして、全員、無の境地(笑)。

 追加の酒を頼む時も、声を出さずにアイコンタクトだけ。常連になれば、向こうから、よき頃にきます。“すみませーん!”なんて呼ばなきゃ気づかないようじゃ、まだまだ。

 しゃべりたくなったら、それ向きの店に行けばいいんです。ここ『池林房』は、作りが特徴的で、屋内だけど屋台をいくつも置いている。そうするといやでも相席だから、自然に会話が始まって、必ず司会する人が出てくる。映画、演劇、文章書きと雑多な人が集まって、ワイワイやる雰囲気が好きで、通い始めて30年ぐらいになるかな。

 色んな個性を楽しめるのが、居酒屋巡りの何よりの魅力じゃないかな。みんな同じでは、つまらない。チェーン店は、どこも同じだから、行く理由が何一つない。僕が行くのは、古い一軒家で、家族経営でやっている小さな店。その反対は、昨日できた大きな店。居酒屋に大切なのは歴史と個性で、それがない店には行きません。

 古くから続く店では、飲み方が大事。50歳、60歳になってグデングデンに、その辺に倒れているのはバカです。愛すべき人かもしれないけど。今のオヤジの8割がそうだけど、ベラベラと自分の自慢話を大声でする。面白くないので話題を変えると、“人の話を最後まで聞け”と怒りだす。そういうオヤジが最低です。

 話をしに、酒場に行くわけじゃない。話しているより、酒を飲んでるほうが楽しい。でも、若いうちは逆。飲んで、議論して喧嘩して、仲直りしてまた飲んでが、とても大事。そういう時は、酒はなんでもいい。何を飲んでも一緒だから。

  1. 1
  2. 2