夏の甲子園の切符をかけた地方大会、早稲田実業の清宮幸太郎選手が行った選手宣誓が大きな話題になっています。「宣誓、私たちは野球を愛しています」で始まる宣誓は、「私たちは野球に出会い、野球に魅せられ、野球によってさまざまな経験を重ねて、この場所に立っています」と続き、最後は、「支えてくれるすべての皆さまに感謝しながら、野球の素晴らしさが伝わるよう、野球の神様に愛されるよう、全力で戦うことをここに誓います」と結んでいます。

 “野球”を“競馬”に置き換えると、それはそのまま、僕ら騎手の想いになり、サッカー、卓球、テニス、ゴルフ……すべてのアスリートの想いです。――では、なぜ、ここまで話題になっているのか。やっぱり、最初の言葉ですよね。

 清宮選手は、「乳がんのために亡くなった小林麻央さんが、夫の市川海老蔵さんにかけた最後の言葉……“愛してる”という言葉が印象に残っていたので」と話したそうですが、あの大舞台で、何のてらいもなく、“愛しています”と言えてしまうすごさは、やはり、ただ者ではありません。

 僕も競馬を愛しています。愛していますが、G1レースの勝利ジョッキーインタビューで、真摯に、照れもせず、それを口にできるかと訊かれると……う~ん、どうだろうと考え込んでしまいます。まぁ、それが、48歳と18歳の違いなのかもしれませんが(苦笑)。競馬の神様に愛されるためにも、もう一度、初心に戻り、レースに臨みたいと思います。

 舞台は函館から、暑い、暑い、夏の中京へ。メインレースは、サマーマイルシリーズの第1戦G3「中京記念」になります。このレースは、これまで10戦して、勝ったのは小倉で開催された2011年のナリタクリスタルの1回だけ。相性抜群とは言えませんが、数字とは別に、初めて挑んだ重賞レースとして、記憶に刻まれています。

 1987年3月22日。パートナーはマチカネイシン。師匠・武田作十郎先生が管理する厩舎の馬でした。当時、芝2000メートルとして施行されていたレースの結果は、9番人気の5着。優勝した田島良保騎手のトウショウレオから遅れること8馬身……どうしたら重賞を勝てるような騎手になれるのか。その差が絶望的に思えたものでした。

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