これに対し、『歯は治療してはいけない!あなたの人生を変える歯の新常識』の著者である「田北デンタルクリニック」(東京都千代田区)の田北行宏院長は、「物を食べると歯垢の酸性化が進む」(歯は酸性に弱く溶ける)ので食後すぐの歯磨きは悪くないと言うが、やはり、歯磨き粉にはデメリットがあること、そして、歯磨きよりもデンタルフロスなどでの歯垢除去のほうが重要だという点については森氏と同様だ。

 さらに、フィンランドやスウェーデンなど歯科先進国と我が国の間では、歯科医の捉え方について、大きな違いがあるとこう話す。「日本では、歯医者は虫歯や歯周病の治療のために存在すると考えられています。事実、我が国の医療保険点数は治療した場合に高く、歯石除去などの予防歯科については低いのです。しかし、たとえばフィンランドでは1972年に国民保健法を制定して予防歯科医療に舵を切りました。その結果、今では世界有数の虫歯の少ない国になっています」

 田北氏によれば、歯の有無、すなわち自分の歯で食事ができるかどうか(20本が目安。本来は28本ある)は、単に数の問題などではなく、認知症、脳梗塞、寝たきり、寿命などの面で、大きな格差を生む要因となっていると言う。80歳以上の日本人男性において、20本以上歯が残っている人とそれ以下の人では、死亡率が実に2.7倍も差があるとの報告もあるそうだ。

 そもそも、歯周病と虫歯とは、まったく異なるもの。ミュータンス菌などを原因菌とする虫歯は、歯を1本ずつ溶かしていく。ミュータンス菌は糖質によって活発化するので、「甘い物=虫歯」の構図はここから発生する。

 実は、ミュータンス菌は赤ちゃんには存在しない。大人からの口移しやキスによって移り、そのまま口内に棲みつくのだ。それに対して歯周病は、歯と歯肉の境目で炎症を起こして歯周ポケットを形成。歯を支える土台そのものを溶かしていくのだ。そのため、歯周病を発症すれば一挙に何本もの歯を失うことになるのである。

 ちなみに、炎症を引き起こす原因は、歯の清掃が不十分で細菌(歯垢)が歯肉などに留まることにある。つまり、両者は発生要因が異なり、その影響もまったく別なのだ。「歯周病は20代から進行し、日本人の中高年男性の8割は歯周病だと推定されます。ところが虫歯と違って最後まで痛みがない場合が多く、気づいたときには歯がグラグラ動いているというケースが普通なのです」(前同)

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